タイから帰国

yahara2011-11-13

昨夜の20時50分にチェンマイを発ち、バンコク国際空港発深夜1時の便に乗り継ぎ、今朝帰国しました。2時間の時差があるので、深夜1時=3時。機内で4時間くらいしか寝ていない。今日は睡魔と戦いながら、論文原稿を修正した。
チェンマイでは、27年ぶりに、ドイ・インタノン(タイ最高峰、頂上は2565m)を訪問した。27年前は、チェンマイ市内から半日くらいかかったように思うが、今では道路が整備されているので、国立公園入り口まで車で2時間しかかからない。1500mくらいのところに、吉良竜夫先生が作られたフィールドステーション(写真)があり、そこに宿泊した。27年前にはこんなに整った調査基地はなかった。このステーションからは、京大のKさんらが研究されている15ヘクタールプロット(標高1700m)まで、車で10分もかからない。このプロットも、27年前にはなかった。このプロットでは、直径1cm以上の木がすべてモニタリングされている。種の同定も丁寧に行われており、Hさんが標本写真のデータベースを作られている。27年前は、ドングリの多様性に魅せられて、地上に落ちているドングリをひろって標本にしたが、比較できる資料や文献が限られていて、同定はできなかった。クスノキ科の同定を試みたが、これもお手上げだった。Hさんの標本写真データベースでブナ科やクスノキ科の樹木が同定されているのを見て、感激した。
今回は、この15ヘクタールプロット(300m×500m)に300m×5mのトランセクトを3本設定し、林床の低木・草本、つる、樹幹8m以下の着生植物を調査した。10m×5m単位で、全種リストを作るという作業を繰り返した。高木種については、Kさんにこれまでの同定結果を実地指導していただけたので、とても助かった。とはいえ、アカネ科、ショウガ科、ラン科、シダ植物などの種を識別して採集し、とりあえず野外名をつけて記録しなければ、林床の全種調査はできない。京大のNさん、岡山大のNさんを加えた調査チームのメンバーはこの全種調査の「ドリームチーム」。今回は、下見のつもりだったのだが、3本のトランセクトの調査を終えることができた。10m×5m単位で150地点の全種リストができた。正確な同定作業はこれからだが、ほとんど前例のないデータがとれたと思う。このプロットでは、これから林床植物の全種モニタリングが可能になる。10年、30年、50年と続けて見ていけば、きっとダイナミックな変化が見えるだろう。林床のほうが、高木よりも早く、さまざまな変化に反応するはずである。このような林床植生の「Observatory」をできるだけ多くの森林プロットで整備したいと考えている。
次回は、400m(国立公園第一ゲート)〜2565m(頂上)まで、標高別に100mのトランセクト調査を実施して、垂直分布についてのデータをとる予定。
8-11日には、Flora of Thailand プロジェクトのシンポジウムに出た。ヨーロッパで学位をとったタイの若い研究者がとても元気よく発表していて、タイの未来は明るいと感じた。また、ヨーロッパ各国から、いろいろな世代の研究者が参加しており、国際協力がとてもうまくいっている。シンポジウム期間を通じて、彼らと良い人脈を作ることができた。次の会合は3年後にキュー植物園で開かれる。そのときを念頭に置いて、私たちのチームとこのプロジェクトの間で、もっと密接な連携をはかりたいと思う。