アホウドリY10を呼び寄せたアリューシャンマジック

久しぶりに実家に戻り、NHK番組Wonder×Wonderで、アリューシャンマジックの映像を見た。湧昇流によって表層に吹き上げられたオキアミをめがけて集まるハシボソミズナギドリの群舞は圧巻だ。その数、なんと1000万羽。ボツワナのオカバンゴ湿地帯の映像に勝るとも劣らない生命の躍動に圧倒された。
ウェブサイト(http://www.nhk.or.jp/wonder/program/48/index.html)に予告動画がある。番組を見ていない人は、この予告動画をすぐ見よう。
オキアミをめぐるハシボソミズナギドリとニシン、あるいはザトウクジラの相利的関係は面白かった。また、栄養塩の供給源としての火山や滝と、浜に打ち上げられたザトウクジラを食べる猛禽やヒグマの映像は、陸と海の循環をビジュアルに描いていて、説得力があった。映像もストーリーもすばらしい。NHK制作の自然番組で、新たな傑作が誕生した・・・と思いながら見ていたら、最後にとんでもないエンディングが待っていた。
あのアホウドリとの再会だ。
2年前のことだ。「生き物地球紀行」だったか、「ダーウィンが来た」だったかは忘れたが、鳥島アホウドリ10羽を聟島に移動させ、アホウドリの新たな繁殖地を作るプロジェクトをとりあげた番組が放映された。アホウドリの復活をライフワークにしているHさんが、大学の先輩という事情もあって、私はアホウドリにはとくに親しみを感じている。その番組の「主人公」だった、神経質で巣立ちの遅い鳥が、Y10だ。2年前の番組は、Y10ともう一羽の巣立ちの遅い鳥が、海原に向かって飛び立つシーンを感動的に描いていたと記憶している。
その、Y10の足輪をつけたアホウドリが、アリューシャンマジックを撮影した映像に映っていたのだ。まさに感動の再会である。映像を見ているだけの私がこんなに嬉しいのだから、聟島移住計画関係者の喜びはひとしおだろう。Wonder×Wonderでは、関係者のひとり、オレゴン州立大学のRobert Suryan教授が”Exciting !”と、その喜びを語っていた。このニュースが、英語で世界に発信されるのは、さらに嬉しい。
CBD/COP10は経済的な利害調整が大きくとりあげられる会議となった。しかし、生物多様性には、お金には換えられない価値もある。アホウドリY10との再会は、その象徴的な事例だ。もちろん、Wonder×Wonderの視聴率で経済価値をはかることはできるが、それは保険の額で命の価値をはかるような話である。
おかえりY10。これからも元気でね。