シンドラーのリスト

昨日はいくつかの急ぎの仕事を片付けたが、アブダビ以来の疲れがとれていないので、夜は早めに帰宅した。そして、BS2で「シンドラーのリスト」を見た。疲れているときに見る映画としてはかなりしんどい内容だが、希望を感じさせてくれる映画でもある。
私はこの映画を、日本での公開時に映画館で見ている。日本での公開は1994年2月ということなので、14年前。まだ東京にいたときのことだ。インディジョーンズ・シリーズやETなどの娯楽作品で地位を築いたスピルバーグ監督が、ナチスによるユダヤ人虐殺というテーマに正面から取り組んだ作品ということで、大きな話題になった。いくつもの印象的シーンが鮮やかな記憶として残っていたが、今回もういちど見ても、その記憶にほとんど間違いはなかった。そしてやはり、それらは心に強く訴えるシーンであった。今回はそれに加えて、新しい気付きがあった。14年も年齢を重ねると、見るポイントが違ってくるものだ。
感想は後回しにして、昼休みに調べたことをメモしておく。
ウィキペディアの解説によれば、「シンドラーが自工場のユダヤ人を“結果的に虐殺から救った”物語は事実ではない。この当時シンドラー強制収容所長アーモン・ゲートへの贈賄容疑で投獄されており、関与は不可能だった。」とある。小説をベースにした映画なので、事実関係がかなり脚色されていることは想像に難くないが、そもそもシンドラーユダヤ人を虐殺から救った物語が事実でなければ、映画のストーリーはまったくのフィクションということになる。
この点に触れた記事の中では、ウィキペディアからもリンクされているガーディアン誌掲載の記事 "Biographer takes shine off Spielberg's Schindler" が参考になる。この記事には次のように書かれている。

  • In fact, Schindler was in jail at the time, and others compiled the lists, according to David Crowe, a North Carolina history professor affiliated to the United States Holocaust Memorial Museum in Washington. (合衆国ホロコースト記念館のディビッド・クロー教授によれば、実際にはシンドラーは当時投獄されており、他の者たちがリストを作成した。)
  • But several of the nine separate lists enshrined by history as Schindler's list were actually compiled by Marcel Goldberg, a corrupt Jewish member of the security police, Prof Crowe reports.(しかし、シンドラーのリストとして歴史に名をとどめている9つのリストのうちいくつかは、堕落して秘密警察メンバーをつとめていたユダヤ人 Marcel Goldberg が作成した、とクロー教授は記している。)

その他の記事から判断して、約1200名のユダヤ人を救ったリストは存在したし、そのリストにもとづくユダヤ人救出を工場長としてシンドラーが指揮したことも確かだが、リスト自体はシンドラー自身が作成したものではなかったようだ。しかしこれなら、シンドラーが約1200名のユダヤ人を救ったことは真実である。
映画のクライマックスでは、ドイツが全面降伏し、ナチス党員であるシンドラーが国外に逃亡するとき、工場の労働者たちがシンドラーの善行を記した書面を手渡し、もし逮捕されたらこの書面を役立ててほしいと申し出るシーンがある。この書面は実在し、シンドラーに関するウェブサイトで公開されている。この書面を読むと、シンドラーが実際にユダヤ人を救うために努力を惜しまなかったこと、工場の労働者たちがシンドラーを命の恩人とみなしていたことがよくわかる。
上記のガーディアン誌掲載の記事は、スピルバーグが設立した生存者財団のもと会長 Michael Berenbaum のインタビューで結ばれている。彼の言葉はとても思慮深く、シンドラーに関する事実を究明しようとする歴史家の努力に敬意を払いつつ、彼の行為への感謝を忘れてはいない。

  • "I have no doubt that Mr Crowe knows more about Schindler than Schindler knew about himself and his own activities. The result only sharpens our appreciation for Schindler's works and deepens the mystery as to why he did what he did."(クロー氏がシンドラーについて知っていることは、疑いなくシンドラーが彼自身について知っている以上のものである。明らかにされた研究成果は、シンドラーの行為に対するわれわれの感謝の気持ちを高め、なぜ彼がそれをできたのかに関する謎について深く答えてくれるものだ。)