パリ紀行(2)

ルーブル美術館に入館して、絵や彫刻を見た。たっぷりあると覚悟はしていたが、量・質ともに、予想をはるかにうわまわる規模であり、足はすっかり棒になってしまった。途中でソファーにかけて休憩しないと、とても体が持たない。ルーブル、おそるべし。
建物の構造は比較的単純である。「口」の字の形をしたシュリー・パビリオン(シュリー翼と訳されているが、ウイングではないのでピンとこない)から、ドノン・パビリオンとリシュリュー・パビリオンという2つのウィング(こちらはまさに翼)が長く伸びている。
しかし、中を歩いてみると、「迷路」と言われる理由がよくわかった。
まず、シュリー・パビリオンの「口」型の廊下の一辺が長いうえに、幅が広く、しばしば一辺に複数の列の展示があるので、右に左にと歩いていると、「口」型のどの位置にいるのか、わからなくなってしまう。このシュリー・パビリオンの一階分の展示だけで、日本の美術館の特別展一回分に近い量である。
ところがルーブル美術館の建物は、地下・0階・1階・2階の4階だて。しかも、シュリー・パビリオンでは、階を上下する階段がない。階を上下するには、ドノン翼かリシュリュー翼の中間まで歩かなければならない。
この階段が曲者で、ドノン翼にせよリシュリュー翼にせよ、同じ階をとおってシュリー・パビリオンから建物の端まで行くことができない。先に進むには、途中の階段を一度下りて、再び上る必要がある。最初はこの構造に馴染めなくて、何度か階段を下りすぎて、下の階まで行ってしまった。
さらに迷うのは、ドノン翼やリシュリュー翼の建物の端である。要するに行き止まりで、上記の階段まで戻る必要がある。
以上のような構造に気づくまで、上に行ったり、下に行ったり、シュリーまで戻ったりと移動を続け、すっかり疲れてしまった。
そして、美術品の数と量のすさまじさ。そもそも、建物自体が第一級の美術品なので、天井の彫刻や絵画を見ているだけでも、おなかがいっぱいになる。
モナリザ」にはすぐにたどりついたが、フェルメールの「天文学者」と「レースを編む女」の場所がわからなくて、あちこちのソファーで休憩しながら、へとへとになるまで歩いた。それからさらに、「ミロのビーナス」を探して、6時すぎまで館内を歩いた。かれこれ6時間ほど、ルーブル美術館にいたことになる。
メインルートからはずれた小部屋にも、第一級の作品が置かれているので、最初のうちは小部屋もこまめにまわったが、そのうちとてもまわりきれないと気づいた。クラナッハの「風景の中のビーナス」は、小部屋に置かれていたが、通路から見える位置だったので、すぐにわかった。小さな絵なのだが、遠くから見ても人をひきつける魅力がある。
ルーブル代表作品300点」という本を買ったが、この本に掲載されている絵画や彫刻の半分程度しか記憶に残っていない。ファン・デル・ヴェイデンの「受胎告知」や、ブリューゲルの「乞食達」は見たかったが、見つからなかった。どこにあったのだろう。
ドラクロアの「自由の女神」は、広い部屋のよく目につく位置にあった。さすがにこの絵は、特別の扱いをされているようだ。しかし、立ち止まって見る人はわずかだった。絵の前のソファーにすわって、ゆっくり鑑賞できた。
彫刻では、「サモトラケのニケ」像が、印象に残った。ロドス海戦の勝利を祝して作られた女神像で、残念ながら頭部は残っていない。きっと、りりしい顔をしていたに違いない。「ミロのビーナス」の腕もそうだが、失われた部分があるほうが、想像力がかきたてられて、面白い。