日本生態学会新潟大会での講演

日本生態学会新潟大会では、大規模長期研究専門委員会が企画するフォーラム「大規模研究プロジェクト: 傾向と対策」で講演する。プログラムは以下のとおり。

  • 環境研究で研究費をとるための豆知識(鷲谷 いづみ・東京大学
  • 広く深く新しく:植物多様性変動観測とエコゲノミクスのプロジェクトデザイン(矢原 徹一・九州大学
  • 地球研プロジェクト予備研究:人間と淡水域の環境改変と感染症との相互作用環(川端 善一郎・京大生態学研究センター)

講演要旨を書いて、大会ウェブサイトから登録を済ませた。大規模長期研究専門委員会設立の経緯を知っているので、つい説教じみたことを書いてしまった。
こんなことを書くようでは、年だなぁ。実際の講演では、「お経」は要旨に書いてありますと言って済ませよう。自分で面白いと思ってやっている研究の話をするほうが、面白いに決まっている。

現代生態学は、2つの顕著に異なる方向に向かって発展を遂げつつある。
一方では、地球環境問題への国際的関心の高まりとともに、広域的な生態系変化に対する研究に注目が集まり、大規模・長期研究が展開されている。また、水文学・気象学・地理学などとの境界領域が成長している。
もう一方で、ゲノム科学の大きな発展とともに、進化生態学の研究は、分子生態学からさらに、エコゲノミクスと呼ばれる分野へと発展を遂げつつある。この分野でもまた、研究は、大規模化・長期化しつつある。
このような状況下は、生態学の教育研究、とくに若手の教育研究のあり方に影響を与えつつある。これまで生態学分野では、大学院生が自分の興味で材料や方法を選び、個人でこなせる範囲の研究を行うことが多かった。今後もこのような研究から重要な成果が生まれる余地は十分に残されている。
しかし一方で、大規模化・長期化研究から新しい成果が次々に生まれ、新しい分野が発展している。このような分野ほど、研究費が増え、ポスドクやその後のポストも増えている。このような時代に、若手研究者は、どのような道を選択すべきだろうか。
私のメッセージは、単純である。常に、新しい課題にチャレンジしつづけてほしい。
技術は日進月歩であり、学ぶべきことが多い時代である。しかし、学ぶことと、創造することは違う。未解決の課題、未開拓の領域にチャレンジすることが重要なのであって、新しい知識や技術をフォローすることは、そのための手段である。
技術の進歩のおかげで、広く、深い研究ができるようになってきた。これからは、全世界の生態系や生物を考えながら研究できる時代だ。そして、従来よりもさらに深い研究ができる。しかし、技術に使われてはいけない。
このようなメッセージをこめて、植物多様性観測とエコゲノミクスという2つの課題に対する、私のささやかなチャレンジを紹介する。