ハリケーンと温暖化(3):雲の動きの難しさ

前回のブログの内容に関して、気象学の研究者の方からメールをいただいた。

ハリケーンの規模拡大と温暖化の関係を考えるうえで最大の問題は、「モデルの中での雲の表現の不確かさ」にあるそうだ。

ハリケーンが渦をまき、発達するためにはエネルギーが要る。このエネルギー源は、水蒸気が凝結する際の熱の放出なので、水蒸気を上空に運び上げる「積雲対流」(私の理解に間違いなければ、入道雲)の挙動が、ハリケーンの規模を決める鍵を握る。

この積雲対流は水平スケールが数kmから10数km程度だそうだ。このような小さなスケールの現象が、積もり積もって、もっと大きな規模で、大気の状態に影響を及ぼしてしまう。ところが、数kmといった小さなスケールで計算していては、とても地球全体の計算ができない。ここに大気研究者のジレンマがあるようだ。

以下は、Oさんのメールの文章をそのまま紹介させていただこう。

地球の大気全体を全緯度、経度、高さ方向の3次元にわたって覆う気候モデルでは、計算機資源の制約のためモデルの水平格子を通常は、60-100km程度に区切って計算を行っております。我々が現在研究を行っている地球シミュレータを用いてさえ、格子は20km程度しかとることができません。そのため、積雲対流の役割を表現するには、パラメター化、すなわち格子で表現可能な物理量を用いて格子スケール未満の現象として生起する積雲に関する水や熱エネルギーの法則、仮説を定式化し、近似的に扱う、という手法をとるしかありません。この近似がなかなか難しい問題で、観測データと適合する近似、物理法則は見つかっていないというのが実情です。


物理法則の世界で、近似式すらたてられない現象があるとは思ってもみなかった。入道雲おそるべし。

メールで、「観測データ自体は、20km程度より小さなスケールで、高い精度でとれるのですか?」と聞いてみた。Oさんの答えは、以下のとおり。

雲に関する観測データ自体、数km程度のスケールの精度で得ることは非常に困難だと思います。

雲の中は乱流状態で、力学的な運動が複雑な上に、水と水蒸気、場合によっては氷もからんだ相変化すなわち熱力学的な変化、が運動と複雑にからみあって起こっています。その中を測器、センサーを用いて、さまざまな物理量の分布(位置)をいかに精度よく計測するか、という問題は難問です。


うーん、計算もできなければ、計測もできない世界なのか。「天空の城ラピュタ」を守っていた「龍の巣」をつい思い描いてしまった。

気象学はまだ、雲をつかむことに成功していないようだ。

無責任なようだが、ごく身近な存在が、大きな謎だというのは、楽しい。雲に、俄然興味が沸いた。