ハリケーンと温暖化:不確実性にどう向き合うか?

理系白書ブログの元村さん曰く

7月にNOAAが今シーズンのハリケーン予測をしていたけれど、「例年より上陸数が多く、威力も増す」との内容だった。今のところ、うれしくないけど大当たりというところか。
地球温暖化と結びつける人がいるけれど、どうなのだろう。

これに対して、「何でもかんでも地球温暖化、それも二酸化炭素原因説ですまそうとする風潮は困ったものです」というコメントが出ている。

確かに、地球温暖化二酸化炭素の因果関係は十分に立証されているとは言えない。また、地球の大気温度が上昇しているとしても、それが海水の温度上昇にどれくらい寄与しているかは、定かではない。海水の温度上昇自体は、観測されている傾向だが、それがハリケーンや台風の発生にどの程度影響しているかについても不確かさがある。このように、環境問題は不確かさに満ちている。

不確実性にどう向き合うか? この問題については、先日の「遺伝子組み換え植物の開放系利用」シンポでも、日本生態学会が作成した自然再生事業指針でも、取り上げた。

自然科学者は、不確かさがあれば、確実な証拠を得ようとする。それが、自然科学の王道だった。しかし、環境問題では、要因が錯綜している場合が多いので、確実な証拠というものはなかなか得られない。一方で、十分な証拠が得られてから対策をとるという態度では、手遅れになるかもしれない。

この問題に自然科学者が気づいたのは、水俣病がきっかけである。水俣病については、患者が出ていて、病気とメチル水銀との関係が明らかになっても、無機水銀とメチル水銀との関係についての証拠が不十分であるという理由から、厚生省は数十年にわたって規制にふみきらなかった。同じ過ちが、アスベストについても繰り返された。

日本生態学会が作成した自然再生事業指針では、このような経験に学び、不確かさがあっても、仮説を採用し、対策を通じて仮説を検証していくという考え方を採用した。どの仮説を選択するかについては、科学的には決められない。そこで、仮説選択を、多様な主体の議論を通じ、「合意形成」によって行うという規範を提示した。

大規模ハリケーンの発生について、「何でもかんでも地球温暖化ですまそうとする風潮は困ったもの」と考えるか、あるいは「地球温暖化にともなう海水温上昇が原因である可能性が高い」と考えるかは、個人の自由である。どちらが正しいかを判定するための十分な証拠がない以上、どちらの意見を支持するかについての判断には、個人の価値観がからむ。このような意見の違いは、「合意形成」によってのみ、解消可能である。もちろん、より確かな証拠を提示することは、合意形成に役立つが、不確かさをゼロにすることはできない。

「合意形成」は、意見の違いを互いに認め合うことを含む。この合意ができれば、より悲観的な予測を導く仮説を選択し、「対策を通じて仮説を検証していく」という点で合意することは、ふつうさほど難しくない。