Songs on the sky

ウィーンに向かう機内。「眼下」(機下のカメラの映像)には、雲の切れ間からシベリアの大地がのぞく。機内に持ち込んだ2枚のCDを聞きながら、のんびりと時間を過ごしている。こんなにゆったりと時間を過ごすのは、久しぶりである。
平原綾香の”The Voice”は、数年前に大ヒットした”Jupiter”の英語版である。
Everyday I listen to my heart・・・。吉元由美による日本語の歌詞は、このあと「ひとりじゃない」と続き、聴く者を「私たちは生かされている」という気持ちにさせる。この、いわば賛美歌的な歌詞と、ホルストのメロディの典雅さと、平原綾香が歌う声の重みがうまくマッチして、”Jupiter”は多くの人の心をとらえた。信越地震のあと、被災者の方々が暮らす避難場所で、この曲が繰り返し流されたという。”Jupiter”には確かに、孤独感を癒す力があると思う。
一方、Andreas Carlssonによる”The Voice”の歌詞は、自分の心の声を信じろと語りかける。

Everyday I listen to my heart
In times when I can’t see
When my faith is nowhere to be found
I trust the voice in me

So when you’re lost wishing for an angel
Or a hand to pull you through
When the world is on your shoulder
Just trust the voice in you


道に迷い、天使の助けが欲しいときでも、自分を信じて前に進め。”The Voice”の歌詞は、そう呼びかける。
世界ほど重くはなくても、誰しも、何かしらの重荷を肩に乗せて生きているだろう。そして、その重荷を耐えがたく感じるときがあるものだ。そんなとき、平原綾香の歌声は、日本語では「ひとりじゃない」と語りかけ、英語では“Just trust the voice in you”と訴えかける。
単なる対訳ではない、2つの歌詞を用意したのは、いったい誰のアイデアなのだろう。いずれも「人生の真実」を含んでいて、状況によって聞きたい歌詞が変わる。実に心憎い演出だと思う。
今の私の気持ちの中では、the world on my shoulderが耐え難いほど重くはないので、”The Voice”の歌詞の方が心に響く。

Sometimes life moves in mysterious ways
And you don’t know where it will end
It’s a fight, no one can fill your place
And nothin’s like you planned

But when you call looking for an answer
To justify what you have to do
Baby don’t look any further
Just trust the voice in you


若いころは、何でも思いどおりになると過信していた。しかし、最近、出口の見えない難問に直面するようになった。誰にも明かせない決意を胸に秘めなければならないこともある。そんなときは、the voice in meを信じて、先に進む以外ない。それでもくじけそうになったときには、”Jupiter”を聞いて、「ひとりじゃない」と思うことにしよう。

2枚目のCDの曲は、南国の海のように明るい。MAXが7月にリリースした「ニライカナイ」。まだ発売前に、NHKポップジャムで聞いて、ネットで注文しておいた。出発直前にCDが届いたので、空の上まで持ってきた。
MAXのファンではないが、琉球音階は好きだ。大学時代、沖縄民謡を採譜してアレンジした「てぃんさぐぬ花」という「レコード」(というものがあったのです)を買って、何度も聞いた記憶がある(フォークディオの紙ふうせんのアルバムじゃなかったかと思うが、記憶が定かではない)。おかげで、「てぃんさぐぬ花」は、沖縄の言葉で2番まで歌える(ただし、レコードで覚えたので、もともとの歌詞とは少し違うだろう)。「島唄」ももちろん好きである。
ニライカナイ」は、イタリア人のアーチスト3人が作曲した。琉球音階がグローバルに注目される時代になったのは喜ばしい。「島唄」はどちらかと言えば演歌調だが、「ニライカナイ」はポップで、リズムは2ビートのアップテンポ。若い世代にアピールするだろう。また、メロディラインが覚えやすいので、若い世代だけでなく、オジサン・オバサンにもかなり支持されると思う。少しアレンジすれば運動会の行進曲にも使えるだろう。沖縄県では、そのうち小中高の運動会で使われるようになるのではないか。

歌詞はMAXがつけたらしい。親しみやすい歌詞だと思う。

覚えてますか めぐりあえた日の微笑むティダ
遠い夢 あの日に描いたニライカナイ
あなたのそばで眠るように
風・舞・空・永遠 生まれ変わる
いとおしい人 南風にそっと包まれながら・・・


もちろん、深い意味をこめた歌詞ではない。言葉のチェーンを楽しめばよいと思う。この歌を通じて、「ティダ」や「ニライカナイ」という言葉が、若い世代に広く知られるようになれば、それはささやかでも、記憶にとどめるべき文化的なインパクトかもしれない。