林道とヤクシカの関係

昨夜は、山地上部に雲がかかったため、宮之浦岳ルートの調査の予定を変更して、楠川歩道の調査を実施した。ガスの中では、サーチライトの光が散乱するので、夜間のシカ調査はできないのだ。
しかしおかげで、林道とヤクシカの関係がかなりよく分かった。白谷雲水峡に至る白谷林道沿いでは、ヤクシカの密度が高い。林道沿いは、明るいので、植物の生産力が高く、それだけ餌が豊富である。しかも、移動しやすい。夜の採食時間には、林内から林道沿いに、ヤクシカが集まってきているようだ。
ところが、白谷雲水峡から辻峠にいたる楠川歩道の山道(照葉樹林内)では、ヤクシカの密度は低い。また、白谷雲水峡から楠川に下る楠川歩道下部の照葉樹林内では、ヤクシカはまったく観察できなかった。食痕はあるので、低密度ではいるはずだが、1回の調査で観察できるレベルではないようだ。
楠川歩道の山道が終わり、楠川林道に入ると、林道沿いの杉林で、ヤクシカがかなり観察できた。この一帯のスギ植林地は、比較的よく手入れされており、林床が明るいため、ヒロハノコギリシダなどの群落が茂っている。林床植生がほとんど消失している照葉樹林内に比べ、まだ餌が豊富である。ただし、ヤクシカの密度が比較的高い状態なので、本来なら被度が100%に達する環境で、林床植生が被度50%以下に減っている。場所によっては、シダ群落が消失し、シカが食べないクワズイモの群落に置き換わっている。
これらの観察結果を総合すると、ヤクシカは林道沿いの明るい場所や、手入れされた植林地で増えており、照葉樹林内では低密度の状態にあると思われる。ただし、低密度であっても、照葉樹林内の林床植生の消失を引き起こしている。楠川歩道では、絶滅危惧種のホソバシケチシダがほとんど消失してしまった。現在、約15株が、シカの首が届かない岩上に残るだけの状態である。アオイガワラビやシマヤワラシダも、同じように激減している。これらは、シカの首が届かないスギの切り株上に、点在するだけである。白谷雲水峡でこれまでに確認できた株数は、いずれも10株に届かない。ヤクシマタニイヌワラビに至っては、いまだに再発見できない。
林道とヤクシカ密度の関係については、これからの調査で、さらに補強データが得られるだろう。この関係がはっきりすれば、対策もわかりやすくなる。林道沿いの個体数管理と植生管理が重要だということだ。