屋久島だより

屋久島に来て3日が過ぎた。1日目は、ヤクシカ夜間調査ルートの下見。2日目は、天候不良のため、ヤクシカ調査はとりやめ、昼間に植物の分布調査を実施。3日目の昨夜は、尾の間歩道のヤクシカ夜間調査を決行した。
今回の調査は、当初から、天候が心配だった。例年なら、まだ梅雨が明けない時期である。来島した6日の夕方も、雨足が強く、ほぼ同時に鹿児島空港を発つ予定の種子島行きの便は欠航した。屋久島行きの便は、20分ほど天候調整のため出発を見合わせたあと、何とか飛んだ。天気図を見ると、屋久島の上に梅雨前線が停滞していて、12日まで雨の予報である。7日はさほど雨が降らず、下見ができた。この様子なら調査ができると意気込んだが、8日は朝から雨で、調査を中止。もっともそのおかげで、ツルランとオナガエビネの混生地をゆっくり観察できた。
9日朝の時点では、九州一円に雨雲が広がり、屋久島も雨の予報だった。しかし、梅雨前線が一気に朝鮮半島まで北上したので、少し期待を持った。午前中は時折雨が降ったが、昼には雲が高くなり、風が出て奥山の霧も飛ばしてくれそうな様子だったので、調査の実施を決定し、準備に入った。
調査は、重さ7kgのバッテリーをかつぎ、大型のサーチライトで森の中を照らしながら、安房林道終点から尾の間歩道を下り、約11.5kmの山道沿いに、発見したシカの個体数を数えるという肉体労働である。
このルートで最大の難所は、鯛之川渡渉地点。雨が降るとすぐに増水し、増水していると渡れない。7日の調査を断念した最大の理由はここにある。
8日は、4時ころに安房世界遺産センターを出発し、まだ明るい夕刻7時ころに鯛之川に到着した。予想どおり、水はかなり引いていて、何とか渡れる。しかし、暗くなってからでは、かなり危険である。
ここで、2チームに分かれた。調査チームの7名のうち、屋久島の山道に慣れたメンバーは、4名。うち、私を含む3名が、7.5kmを下るチーム。残る4名は、4kmを登って安房林道終点まで戻り、車2台を運転して、尾の間にまわることにした。
7時半に調査を開始。曇っていることもあり、林の中はすっかり暗い。しばらく歩くと、7kgのバッテリーの重さが、ずっしりと肩にかかる。少し重心がずれると、バランスを崩しやすい。一方で、夜の山道は、木の根や石の位置が確認しにくく、予想以上に歩きにくい。サーチライトで照らせば歩きやすいが、途中でバッテリーが切れると調査ができないので、最初はヘッドライトだけで歩いた。尾の間に下山したのは、深夜0時直前。約10kgの荷物をかついで、夜の山道を4時間半歩いたことになる。「齢51なる翁」にとっては、ややハードな調査だった。
さて、結果はというと、尾の間歩道11.5kmの山道で確認できたのは、4頭。予想以上に少なかった。林道で遮断されていない森林内では、ヤクシカは低密度の状態で維持されているようだ。これから行う永田歩道の調査でも同じ結果が出そうな気がする。
結局、林道と伐採地が、シカの増加を促進している大きな要因なのだろう。発見できた頭数は少なかったが、有意義なデータがとれた。まずは、順調な滑り出しである。