「公共財」に関する論文検索

九大では google scholor が電子ジャーナルにリンクされたという記事に対して、aoiさん、moijさんからコメントがあった。情報利用度への大学間格差については、今後、関心が高まるに違いない。
google scholor はオープンリソースなので、誰でも使える。これは、とても偉大な変化だ。google scholor がリリースされるまでは、web of scienceなどに高い使用料を払っている大学と、払っていない大学で、情報利用度に圧倒的な格差があった。
google scholor や web of science などの検索エンジンの威力は、新しいテーマについて文献を探すときに発揮される。
私はいま、生物多様性や知識のような公共財をめぐる人間行動にかなり関心を持っている。経済学的な問題なので、これまでに張り巡らせたアンテナだけでは、とても情報を集約できない。こういうときに、検索エンジンが威力を発揮する。
試しに、"public goods"と"game”で検索をかけてみた。"game”というキーワードを使えば、ゲーム理論を使って、"public goods"に対する利他行動の成立条件を調べている研究論文がヒットするだろうと考えての検索である。
google scholorで検索してみたところ、なんと14,100件の文献がリストされた。上位5件を次に記そう。

Why Free Ride? Strategies and Learning in Public Goods Experiments - Full-Text @ Kyushu Univ.
J Andreoni - Journal of Public Economics, 1988 - ssc.wisc.edu
... The experiment reported in this paper is typical of most public goods experiments.
It consists of a simple public goods game that is iterated 10 times. ...
Cited by 139 - View as HTML - Web Search

"Full-Text @ Kyushu Univ."とあるのは、九大に電子ジャーナルが所蔵されていることを示す。ここをクリックすれば、即座にpdfファイルがダウンロードできる。
この論文は、公共財へのただ乗り行動に関する、実験的研究の古典。139回も引用されている。

Are people conditionally cooperative? Evidence from a public goods experiment - Full-Text @ Kyushu Univ.
U Fischbacher, S Gaechter, E Fehr - Economics Letters, 2001 - mpiew-jena.mpg.de
... Abstract We study the importance of conditional cooperation in a one-shot
public goods game by using a variant of the strategy-method. ...
Cited by 97 - View as HTML - Web Search - papers.ssrn.com - ideas.repec.org - all 4 versions »

この論文は知らなかった。Economics Letters なんて、生物学者はふつう見ないもんね。

Testing for effects of cheap talk in a public goods game with private information - Full-Text @ Kyushu Univ.
T Palfrey, H Rosenthal - Games and Economic Behavior, 1991 - ideas.repec.org
Testing for Effects of Cheap Talk in a Public Goods Game with Private
Information. Author info | Abstract | Publisher info | Download ...
Cited by 26 - Cached - Web Search

Games and Economic Behavior なんて雑誌があるのね。

Volunteering as red queen mechanism for cooperation in public goods games - Full-Text @ Kyushu Univ.
C Hauert, S De Monte, J Hofbauer, K Sigmund - Science, 2002 - sciencemag.org
... We consider three strategic types: cooperators and defectors, both willing to engage
in the public goods game and speculate (though with different intentions ...
Cited by 40 - Web Search - dx.doi.org - adsabs.harvard.edu - ncbi.nlm.nih.gov - all 5 versions »

この論文は読んだ。公共財をめぐるゲームにおいて、ボランティア行動がポジティブ・フィードバックで強化される条件があり得ることを示した理論研究。よもや、「ボランティア」と「赤の女王」がひとつの論文のタイトルに使われるとは思わなかったよ。しかも、掲載誌は Science だ。この論文を読んで、経済学と生態学の境界は、完全に消失したと感じた。

Incorporating fairness into game theory and economics - Full-Text @ Kyushu Univ.
M Rabin - American Economic Review, 1993 - ideas.repec.org
... Daniel Houser & Robert Kurzban, 2003. "Conditional cooperation and group dynamics:
Experimental evidence from a sequential public goods game," Experimental ...
Cited by 662 - Cached - Web Search - ideas.repec.org - Library Search

これもこの分野の実験的研究の古典。なんと662回も引用されている。

Full-Text @ Kyushu Univ.の表記でわかるように、上記5つの論文は、九大ではすべて電子ジャーナルで読める。mojiさんが悔しがるのは、よくわかる。情報利用度の格差は、早急に埋められるべきだと思う。そのためには、いかに格差があるかを、白日の下にさらす必要があるだろう。そう思って、例をあげてみた。

ただし、google scholor がオープンリソースとして使えるようになったことが象徴するように、情報利用度は確実に拡大している。上記5点の論文のコンテンツも、ネット上のオープンリソースでかなり入手できる。この点は、朗報である。

また、何かのテーマを深く追求するときには、情報はかえって邪魔になることもある。

梅棹忠夫さんが、『知的生産の技術』の最後の方で、「文献は、自分の考えをすでに他人が書いていないかどうかを確認するために読むものだ」といった趣旨のことを書かれていた。「この本で書いたことも、誰かがどこかに書いているかもしれない。ああ恥ずかしい」というような文章があったと記憶している(この本を読んだのは中学時代なので、記憶違いでなければ良いが)。

知的生産活動は、自分の頭でしっかり考えることが基本だ。情報に流されないようにしたいものである。