生物多様性保全ゾーンの春

今日は久しぶりに新キャンパスに出かけた。少人数ゼミ「九大新キャンパスにおける森林と水辺の生物の保全」の受講生5名の現地見学会を兼ねて、環境創造舎主催のイベント「散策、たけのこ、とり放題!」に参加した。
保全ゾーンの森では、すでにヤマザクラの花は終わり、シロダモの白い毛に覆われた若葉が、常緑樹の林に独特の彩りを添えていた。小川にはタガラシが咲き、カワジシャも若葉を伸ばしていた。
受講生やイベントに参加した学生と一緒に、春の保全ゾーンを歩く。ウグイスのさえずりがひっきりなしに聞こえ、心地よい。水辺では、アオモンイトトンボが飛び交い、ときどきタンデムにつながったペアもいる。もう繁殖の営みが始まっている。
カスミサンショウウオを、まだ2個体見ることができたが、その産卵のシーズンはもう終わりに近い。残された卵のうの中には、孵化を目前にした小さな幼体が、クルクルと動いている。もちろん、すでに孵化して、水中を泳いでいる幼体もいる。
昨年秋に新設した3つの小池では、ニホンアカガエルのおたまじゃくしも、元気に育っていた。サギ類に食われて、ほとんど見かけないと聞いていたので、かなり気になっていた。しかし、池に近づくと、浅い水底に潜んでいた30匹ほどのおたまじゃくしの群れが、一斉に、泥の表面を這いながらザザザっと動いて、池の深みに姿を消した。
池のほとりでは、3月2日に移植したミゾコウジュが、元気に地上茎を伸ばし始めていた。環境創造舎スタッフのTくんやKさんが目ざとく見つけて、ちぎってきた。
「これはハーブですか」
「そうだよ、日本のハーブだよ、ミゾコウジュという絶滅危惧種で、3月にボクが移植したんだよ!」
幸いなことに、移植した1000株以上ものミゾコウジュは、みんな元気だ。TくんやKさんにちぎられた影響は、軽微である。満開のときは、結構見ごたえがあるかもしれない。種子もたくさんできるだろう。その種子が、うまく発芽し、定着して、来春までロゼット群落を維持してくれるかどうか、それが問題だ。今年の勝負どころのひとつである。
コサギアオサギは、私たちが近づくと悠然と飛び立ち、美しく羽根を広げ、優雅に空を舞い、さほど遠くない水辺に、静かに降り立つ。鳥は自由だ。しかし、水辺がなければ生きていけない。保全ゾーンでは、多種多様な水辺環境を残し、さらに増やしてきた。その結果、サギ類の飛来数も、増えたと思う。おたまじゃくしや、メダカなどには、迷惑な話かもしれないが、いつ訪れてもサギがいるのは、自然が豊かな証である。
思えば、新キャンパスでの保全事業に関わって以来、心休まる日はなかった。造成工事の間は、言うなれば、戦火の中を難民救助に奔走する気分だった。1種も絶滅させないために、少しでも多くの命を救うために、池をほったり、移植をしたり、ロープをはったり、連絡調整に走りまわったり・・・。
幸い、多くの人の協力が得られた。その結果として、この生物多様性保全ゾーンには、たくさんの生き物が残った。沈砂池を撤去し、3つの小池と4つの棚田を作った昨秋の工事を最後に、この生物多様性保全ゾーンに静寂が訪れた。今年の春は、かつてなくのどかである。
これからは、せっかく残されたこの保全ゾーンを、さまざまな活動に利用してほしいと思う。
ここは、単なる保全ゾーンではない。
九州大学という、創造の場の中に、この生き物たちの聖域はある。願わくば、この生き物たちの聖域を、創造的な活動に生かす学生たちが、続かんことを。
午後からは、竹の子ほりに汗を流した。生物多様性保全ゾーンの入り口の、ホタルの小川を渡り、斜面を登れば、竹林エリアである。今はまだ管理が不十分なので、孟宗竹が密生しすぎている。密生しすぎた竹林内には、あまりたけのこは出ない。旧農道に地下茎を伸ばし、張り出してきた竹のまわりほど、たけのこが多い。このような場所でたけのこを掘ると、竹林拡大防止にも役立つ。もちろん、たけのこという「恵み」を手にすることができるから、一石二鳥である。
農道沿いに群生したオドリコソウは、ちょうど満開で、独特の淡い香りがただよっていた。林縁には、アケビのつるが伸び上がり、淡紫色の花房が随所に下がっていた。私は、アケビのつるも収穫品に加えた。少し苦いが、そこがいい。ゆでるだけで、食べられる。逸品である。
さて、たけのこも食べたし、アケビの苦味も堪能したし、今日はゆっくり寝よう。
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