研究テーマの決め方

今日は、新ポスドク・新D1・新M1・新卒研生を迎えて、新年度最初の研究室セミナーを行った。夜は、新人歓迎会。私は早めに切り上げて帰宅したが、研究室ではまだ盛り上がっていることだろう。
ここ数年、研究室の「人口」は減り気味だったが、今年はM1が6人入学し、ポスドクも増えて、30人規模の研究室に戻ってしまった。卒業研究生も6名。当分は、新M1・新卒研生の研究を軌道に乗せることが大きな課題になる。
過去10年間、できるだけ本人の興味・関心を尊重してテーマを決めてきたが、数年前から、私の研究プロジェクトの中でテーマを選んでもらうというオプションを、以前よりは積極的に薦めるようにしている。5年前にはじめた「キスゲ・プロジェクト」は、何人もの大学院生がバトンを受け継ぎながら発展させていく、リレープロジェクトとして構想したものだ。今年の新M1の一人のNさんが、新たにバトンを受け取ってくれることになった。
プロジェクトの中でテーマを選ぶというやり方は、主体性のない選択とは限らない。要は、本人がテーマを自分のものにできるかどうかである。自分のものにできれば、自力でテーマを開拓するよりも、はるかに高い水準で研究をスタートできる。
通勤中に読んでいる、ワトソン著「DNA」に、フランソワ・ジャコブがアンドレ・ルヴォフの研究室で、ジャック・モノーとの共同研究をはじめたときのエピソードが書かれている。ジャコブとモノーは、遺伝子の発現がリプレッサーによって制御されていることを実証したことで有名な分子生物学者だ。ボスのルヴォフとともに、3人でノーベル賞を受賞している。
それほどの人物なので、最初から研究テーマを主体的に決めたかというと、まったくそうではなかったらしい。
ジャコブはノルマンジー上陸作戦に参加し、九死に一生を得たあと、シュレディンガーの「生命とは何か」を読んで感銘を受け、分子生物学の研究を志した。彼は、フランスのレジスタンス運動の幹部として勇名をはせたモノーのいるルヴォフの研究室に入ることを希望して、7−8回ルヴォフを口説いた。ついに折れたルヴォフの態度を、ジャコブは次のように書いているそうだ。

私の志望や、この分野に通じていないことや、どれだけやる気があるかといったことは何ひとつ聞いてくれず、ルヴォフはこう言った。
「なあきみ、私らはプロファージの誘導を発見したんだよ!」
「そうなんですか!」
私はできる限りの賞賛をこめてそう言いながら考えた。
「プロファージってなんだ?」
それからルヴォフが尋ねた。
「ファージの研究に興味はあるかね?」
私は口ごもりながら、それこそまさに私が研究したいものですと答えた。
「よろしい。では9月1日から来なさい」
ジャコブは面接を終えたその足で本屋へ行き、たった今自分が研究したいと言ったことを説明してくれそうな辞書を探したという。

これが、ラクトース・オペロンの発見に至る研究をはじめたきっかけだったというから面白い。研究をはじめる時点では、必ずしも専門的な知識は必要ないという良い例である。
九大・生態研では、いろいろなチャレンジが成就できる条件を用意しているつもりだ。指導教官としてできるだけの応援はするが、やはり決め手は本人の取り組み方である。
願わくば、好きなことをとことんやって、「努力」だの「実行力」だのという言葉が必要ないように没頭して、面白い研究をしてほしいものだ。
伸びてきた芽には、最大限の応援をしよう。さて、今年1年、どんな新しい芽が伸びるだろうか。
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