ウェストナイル熱媒介蚊対策(続)

生態学会全国委員会に出席中。
ウェストナイルウイルスは、媒介する蚊の種類が多い点で、従来の感染症とは大きく異なる。11種の蚊を全部駆除するのは、到底現実的ではない。この点は、「ガイドライン」でも考慮されており、「発生量・人および鳥嗜好性の点から、まずはアカイエカ・チカイエカ・ヒトスジシマカを防除対象とすべきである」という判断を下し、これら3種の防除対策について、詳しく述べている。ヒトスジシマカの幼虫が利用するのは「小水域」、チカイエカ・ヒトスジシマカは「中水域」とされており、「ガイドライン」を読んで冷静に対応すれば、水田・ため池などに片端からフェンチオン粒剤を使うという方針にはならない。しかし、もしウェストナイルウイルス保有する蚊が日本で確認されたり、実際に患者が発生したりした場合に、どこまで冷静な対応ができるだろうか。
ガイドライン」では、環境への配慮についてもとりあげており、「環境に配慮した防除戦略」という節を設けて、次のように述べている。

これまでの蚊防除の主力となる方法は殺虫剤散布であった。しかし、殺虫剤は生物全般に対する生理活性が高く、無配慮な使用は環境に対して負の影響を与える。しかし、殺虫剤を使用しないで防除効果をあげることは、特に緊急時の対策等では極めて困難である。防除効率と環境保全、すなわち利便性とリスクのバランスを正しく判断して使用すべきであろう。

ここに書かれているのは、妥当な内容だと思う。では、どのようにすれば、防除効率と環境保全のバランスがとれるのか。「緊急時」に冷静な対応をするためには、事前によく検討しておく必要がある。「ガイドライン」は、全体としてはよくまとめられていると思う。薬剤抵抗性の問題にも言及されている。
「防除効率と環境保全のバランス」をどうとればよいのかについては、生態学者が真剣に考えて、具体的な提案をすべきかもしれない。