屋久島を前に生物多様性調査について考える

フェリーで屋久島にわたるには4時間かかるが、学生の論文原稿をかかえてきたので、あっという間に過ぎてしまった。あと15分で上陸である。
屋久島では、地を這うような植物の分布調査をしている。100m×4mの調査区を設置し、植物のリストを作るという単純な調査の繰り返しである。調査区の両端に杭を打ち、再調査できるようにしている。過去の状態が正確に記録された調査定点を、たくさん設置しておいて、生物多様性がどのように変動しているかを記述しようという考えである。単純な計画だが、屋久島全域に数百地点の調査定点を設置する試みは、必ず将来に生きると思う。生物多様性に注目が集まり、多くの調査研究がなされている。しかし、分類学分野の研究と、生態学分野の研究の間には、深い溝がある。分類学者は、各地を歩き回って標本を集め、多様性を記述する。しかし、調査定点を設けるという発想がないので、分類学者の行う、いわゆる「インベントリー調査」では、どのような変動が起きているかを量的に評価できない。
一方、生態学者は、調査定点を設け、変動をしっかり調査する。調査区は、しばしば数ヘクタールに及ぶ。しかし、高々数ヘクタールである。しかも、定点の数が少ない。屋久島には、数ヘクタール規模の長期森林調査区がいくつか設定されているが、「いくつか」にすぎない。「いくつか」の調査区のデータだけでは、屋久島全域の多様性を語ることは到底できない。
この両者の間の溝を、少しでも埋めたいと思う。昨年1年間で設置した定点は、まだ100に及ばない。今年は調査地の選定を省力化し、夏までに300地点を設定・調査したい。
調査地の環境条件も測定したいが、それはこれからの課題である。屋久島全域に300以上の調査定点を設定し、植物のリストを整備すれば、いろいろな方の協力が得られるようになるだろうと思っている。
さあ、屋久島上陸だ。