ミゾコウジュ移植

今日は、九大新キャンパスに出かけて、ミゾコウジュの移植作業に汗を流した。第II工区の造成とともに、「かなくそ池」というため池が埋め立てられる。いまどき珍しい、護岸されていないため池である。堤側の水辺には、新キャンパス内ではここだけの、ミゾコウジュの群落がある。移植しない限り、消失する。「1種も絶滅させない」という方針に沿って、移植作業を実施したわけである。
スコップで掘り取ったミゾコウジュをコンテナ7個につめて、計4回運んだ。1個のコンテナで、少なくとも40株程度は運んだので、1000株以上は移植したはずである。
自生地で掘り取る作業をしていると、水面から少し高い位置に帯状に分布していることがよくわかる。適度な冠水と乾燥の繰り返しによって、高茎草本の生育が抑制されている場所に生えている。護岸をされたため池では、このような環境は失われる。
当然のことながら、移植先は、上記のような条件を満たす場所でなければならない。幸い、昨年秋に、生物多様性保全ゾーンに、3つの池が作られており、これらの池の周辺には、適度な冠水と乾燥が繰り返される斜面がある。そこで、この斜面に移植作業を実施したわけである。
ただし、「かなくそ池」に比べると、生物多様性保全ゾーンの池は、規模が小さく、また斜面の傾斜はなだらかである。50〜100株程度の単位で、池の周辺のいろいろな場所に植えてみたものの、移植先でミゾコウジュが存続するかどうかは定かではない。
池の周囲の斜面は、潮間帯に似ている。非常に短い距離の間に、著しい環境勾配がある。昨年の秋につくったばかりの池だが、はやくも顕著な帯状分布ができている。常時冠水している水際には、カヤツリグサ類が優先し、少し離れるとアゼナルコスゲやオオクサキビが生えている。オオクサキビは水が流れ込み、砂が堆積する場所に多く、アゼナルコスゲは、より安定した場所に、進入を始めたところである。今年はさらに多くの種が出現し、遷移が進むだろう。遷移の方向を経験的に予想してみると、ミゾコウジュが存続する条件は、かなり厳しいような気がする。斜面が緩やかなので、斜面のどの位置、どの高さにも、競争的な種が優先するのではないか。
ミゾコウジュが存続する環境を確保するためには、どのような管理が必要だろうか。これは、生態学的にはとても面白い問題である。
条件さえ整えば1000株以上の群落をつくる植物が、斜面の傾斜などが少し違うだけで、存続できないかもしれない。そこにどんな条件を加えれば、存続が可能になるのだろうか。
幸い、1000株をこえる植物が確保できているし、今後の生育の様子を見ながら、「順応的管理」ができる。多様性の維持機構や、特殊化という問題について理解を深めるうえで、格好のテーマである。

*また下降気味なので、ヨロシク→人気Blogランキング