北川グループ研究発表会

今日、午後は、河川生態学術研究会北川研究グループ発表会である。北川研究グループ・国土交通省九州地方整備局・宮崎県が共催で企画している発表会であり、北川研究の成果を行政担当者やコンサルなどの関係者に紹介し、実際の河川管理・河川行政に生かしていくという趣旨で、毎年実施されている。今回は、私の発表はないが、研究発表プログラム全体の座長をつとめる。最後に50分間、総合討論の時間があり、その時間をうまく取りまとめるのが最大の仕事。しっかり聞いて、しっかり座長をつとめよう。

「北川河川激甚対策特別緊急事業の流れと効果検証」
平成9年に戦後最大の出水があり、全川にわたり、堤防をこえて水があふれた。この水害を受けて、大規模な河川改修事業が計画された。おりしも、平成9年に河川法が改正され、環境への配慮が法の目的にもりこまれた。北川では、川づくり検討委員会が作られ、環境にも配慮した川作り計画が立案された。この委員会は、事業開始とともに、北川モニタリング委員会へと移行した(私はこの時点から、モニタリング委員としてこの事業に関わってきた)。
このようにして計画された北川河川激甚対策特別緊急事業では、霞堤方式の採用、干潟の保全、ワンドの保全(上流側の盛り土を残した)、再生、瀬・淵構造の保全(水中掘削は原則として行わない)、河畔林の保全、霞堤内部にある湧水に育まれた湿地の保全などのさまざまな保全対策が実施された。
昨年は、台風23号により毎秒4800トンの出水(平成9年とほぼ同規模)があったが、1241戸(平成9年)→88戸に被害を減らせた。約1mの水位低減効果があったことが確認された。
台風23号により予想外の土砂の移動が起きた。この点に関する検討が今後の課題である。

「河口域におけるハマガニの生態と保全
ハマガニは河口域の土手に生息し、ヨシなどの植物を食べる。夜行性が強く、日中は巣穴に隠れている。秋に交尾し、11月〜3月にはメスは卵をかかえて「休眠」する(生理的休眠ではなく、活動レベルが低下した状態)。北川では、河口から6km上流まで、汽水域のほぼ全域で分布が確認された。低水護岸域には分布せず、自然河岸に棲息している。つまり、ハマガニは自然河岸の指標種である。夜間の目視観察により、ヨシに加え、カモノハシ属、メダケ属などを食べることがわかった。堤内地まで出かけている個体もあり、食草が制限要因とは考えにくい。底質の粒径が小さいほど棲息数が多かった。また、表面硬度が小さい(やわらかい)場所に多かった。巣穴は、活動期には平均満潮位付近に、「休眠期」にはそれより低い場所に作る傾向があった。実験条件で調べた結果、冠水耐性は高いが、乾燥耐性は低いことがわかった。

「感潮域ワンドの生態学的意義」
北川では河口堰がなく、感潮域に自然ワンドが発達している。汽水・海水域には128種の魚類が確認されており、北川の総魚類種数177種の約9割をしめる。種多様度は他の河川に比べ非常に高いが、この多様性は汽水・海水域の魚類の豊富さによる。ワンドでは干潮時に伏流水から塩分が供給され、塩分濃度が維持されやすい。満潮時でも、本川に比べ、塩分濃度が高い。酸素飽和度と水温は、ワンドのほうが本川よりも変化が大きい。ワンドで湧いている伏流水の酸素飽和度は本川より低く、水温は高い。この違いがワンドの環境変化をもたらしている。大雨時には、ワンドに4〜10倍の魚が集まっており、増水下での避難場所になっている。川島の人工ワンドでは、造成1年後にコアマモが出現し、魚類の種数(29)も回復し、2年目にはアカメも確認された。ただし、昨年の出水で形状が変化した。強度の確保が、今後の課題である。
ワンドとは関係ない話題だが、ドジョウはメダカよりもはるかに少ない。支川・水田地帯を探したが、発見できなかった。川坂・須佐の、湧水のある清流でのみ、発見された。

このあと、「タマバエ」「テレメトリー」についての講演があったが、ノートPCのバッテリー切れのため、メモをとらなかった。通勤電車の中で毎日使っているのに、充電するのを失念していた。反省しよう。1時間の総合討論は無事終了。