オオミズナギドリの生態

宿は、PHSのモバイルカードが使えた。研究会の記録(続き)を、アップロードしよう。

岡奈理子(山階研):暖流域個体群の遠・近距離組み合わせトリップによる子育ての最適性の検証
オオミズナギドリの繁殖地の8割は日本にある。調査した御蔵島個体群の子育て中の親の採餌海域は、主に2つ。2002年以後、19羽に衛星対応発信機を装着。35羽(発信機をつけたのとは別個体)にマグネットを装着。18巣に出入り記録装置(マグネットの磁気を感知するセンサー使用)を設置。また、巣に自動体重測定装置を設置。
3個体についての衛星テレメトリーの結果から、いずれの個体も、御蔵島周辺の近距離採餌海域に加え、北海道南東部沿岸域を遠距離採餌海域として利用していることがわかった。北海道までノンストップで飛んでいくそうだ。9月の子育て中の雄親のスケジュール。近海採餌5日間に続き、北海道での8日間の遠海採餌・・・この間、雌が近海で採餌して、給餌。1羽1回あたり平均給餌量は68.4g(びっくり!)。・・・給餌期間は82日間。・・・ひな1羽あたりの総給餌量は、約4300g。1回の子育てに御蔵島の親はどのくらいの距離、餌場と繁殖地を往復するか。答えは13400km・・・地球の直径に相当。
結論:御蔵島の親鳥では、栄養状態の低下が遠距離採餌の引き金になっており、遠距離採餌をしてもなお、十分な栄養状態にはない。きびしい生活やなぁ。

佐藤克文(東大海洋研・大槌):加速度データロガーで把握するオオミズナギドリストロークパターン
2004年3月に極地研(南極でペンギンの研究)から東大海洋研へ移籍。「三貫島」という酒のラベルの絵から、切り立った「三貫島」の地形を知る。「三貫島」にオオミズナギドリがいることを知り、5月より海洋研・北大・山階鳥研の共同研究を開始。加速度データロガーを6羽に装着し、5羽から回収(かなり効率が良いな)。このロガーの記録から、体軸に沿った加速度と、それに垂直な背腹方向の加速度の時間変化がわかる。
潜水行動では、もぐるときに、体軸が下向き、上昇するとき上向き、それからはばたいて(ストローク)飛び立つ(グライド)。当たり前だが、その様子が加速度の波形からわかる。羽ばたきが多い飛翔パターンもある。体は体軸に対して上下動を繰り返す。この飛翔パターンが何を意味するのか、まだわからない。わからないことがデータとしてとれる・・・これは、加速度データロガーの威力だな。
大きな個体は低周波で、小さな個体は高周波ではばたく。ヒラメ・サケ、オサガメ、ウミガラス、ウミウ、ペンギン類・アザラシ類のデータをプロットしても、同様の傾向がある。物理学的な合理性があるのだろう。

綿貫 豊(北大水産科学研究科):オオミズナギドリの給餌速度と親の体重−採食場所が異なる2つの繁殖地間の比較
三貫島と御蔵島を比べると、三貫島のほうが、生産性の高い水域(北海道南岸)に近い。衛星写真から画像解析でクロロフィル濃度を推定した図で、この点についての説明があった。トリップ長を比較すると、御蔵島では平均2.8日(1日のトリップは、2日以上のトリップの合計より少なく、全体の3割程度)、三貫島では平均1.6日(1日のトリップが7割を占める)。1回のトリップでの採餌量は、御蔵島では平均44g、三貫島では22g。雛の体重は、三貫島が御蔵島より10%大きかった。
しかし、平均給餌量×平均給餌速度(トリップ長平均の逆数)は、2つの島で大差がない。三貫島のように毎日給餌されると、雛の成長が良いのではないか。
親の体重は御蔵島より三貫島が10%重い。三貫島では、雛に十分給餌しても、なお親の蓄積が可能なのか? これらの点にまだ疑問が残っており、これからの研究ではっきりさせたいという話だった。

3題の話を通じて、オオミズナギドリの繁殖・採餌生態に関する研究が堅実に進められていることがわかった。2つの繁殖地の比較データが得られている点も、この研究プロジェクトの強みである。