山階鳥類研究所研究成果発表会

今日は、手賀沼のほとりにある我孫子市水の館」で、山階鳥類研究所主催の「希少鳥類の生存と回復に関する研究」研究成果発表会に出席している。文部科学省科研費の「特定奨励費」という助成枠でサポートされた研究プロジェクトの発表会である。PHSの電波が会場には届かないようで、モバイルカードが使えない。以下のメモをアップロードできるのは、研究会後になるが、現在形で書いていくことにする。
私は山岸所長から、このプロジェクトの評価委員を頼まれたので、出席したわけだが、会場に来てみると、、多忙な方々が、列席されている。恩師の岩槻さん、研究室の先代の教授である小野さん、総合地球環境研究所所長の日高さん、京大退官後に生命誌研究館に移られた宮田さん、などなど。参加者から、わが国の自然史研究分野で「山階鳥類研究所」が占めている位置の重要性がわかる。
(1) 浅井茂樹(山階研):クマタカの羽毛からわかること
 繁殖後の巣とその周辺で収集されたクマタカの羽毛からDNAを抽出し、ミトコンドリアDNAコントロール領域の一部の配列を決定し、比較した。採集地は全国23箇所(北海道から九州までをカバー)。TempletonのNested Clade Analysisで分析。(この方法は、とてもわかりにくいので、結論が明快な場合には、私はあまり勧めない。結論が微妙な場合に、「付加価値」をつける手段としては使える。合衆国の友人に、論文の「検索表」で判断に迷う場合が多いと思うが、そういうときは、どうするの? と聞いたことがある。彼の答えは、明快だった。「Alanに電話して聞くんだよ」)。例によって、NCAの方法論の解説が続く。誰にもわからないと思う。私は、Alan Templetonの一連の論文を読み、この方法論を理解するために、1週間を費やした。それでも、判定のための「検索表」の根拠の詳細は、よくわからんかった。結論。「遺伝子流動の制限が見つかったが、その要因は、集団の分断化ではなく、距離による隔離だと考えられる。クマタカの分散を妨げる障壁はないと考えられる」。「検索表」は、「分断化」と「距離による隔離」を分けてくれるが、そもそもこの両者は二者択一ではない。ここが、AlanのNCAを使う場合に陥りやすい落とし穴だと思う。(質問の時間があったので、この点をコメントした)
 次は、全国を1つの集団としてみたときの、ハプロタイプ多様度・塩基多様度の、他種との比較。絶滅危惧種で報告されているレベルより高く、普通種のレベルにあるという結論。
(2) 酒見佳代(国土環境研究所):クマタカの羽毛中金属元素の濃度分布
 山階鳥類研究所としてはじめて、民間と共同で行った研究だという紹介があった。まず、トビに関する先行研究の紹介。羽毛の水銀濃度は、体内の濃度よりはるかに高い。羽毛の水銀濃度は、体内の濃度をあらわす良い指標となる。クマタカの羽毛の重金属分析にあたっては、DNAによる個体判定と組み合わせ、個体内変異・個体間変異を調べた。この点は、従来の研究よりも新しい。結果として、個体内でも個体間でも、測定値がかなりばらついていた。雨覆と体羽を比べると、金属によって傾向が違う。また、個体によって差があったりなかったりする。これは、換羽順序にしたがって、濃度が減衰するためだろう。水銀濃度をさまざまな羽毛で比較すると、初列風切での測定値の変異幅が大きい。これは、初列風切が最初に換羽するためと考えられる。今回の結果をこれまで他の鳥で得られた結果と比較すると、クマタカは、ハクトウワシについで、羽毛中の平均水銀濃度が高い。この結論のために示された図を見ると、他の鳥のデータに比べ、今回のクマタカに関するデータは、変異幅が非常に大きい。さまざまな羽毛部位について調べたためだと思われるが、逆に言うと、これまでの他の鳥に関するデータが、同じ部位について得られたものでない限り、種間比較は難しいということになる。

川那部さん到着。要人そろいぶみである。

(3)柿澤亮三(山階研):鳥類図鑑から何がわかるか−カンムリツクシガモを例にとって
 江戸時代の鳥類図譜46点による鳥類古名の研究。こういう研究は、大好きだ。自分でやる時間がないのが残念。
 カンムリツクシガモの第一標本の絵がスクリーンに写される。美しい。この鳥の標本は、世界で3点しか残っていないのだそうだ。そのうち第2標本は、山階鳥類研究所にあるそうだ。カンムリツクシガモ発見のエピソードの紹介。第一標本は英国の研究者により雑種と判定された。第2標本にもとづく新種記載の論文を英国鳥類学会誌に投稿したところ、この結論がすでに出ていると言われた。その後、鳥類カルタに、そっくりの鳥が描れいていたことなどから、新種と判定されたという。
 カンムリツクシガモの図は、江戸時代の図譜にある。たとえば堀田禽譜では、函館松前で採られた「ちょうせんおしどり」として、雄・雌が描かれているそうだ。水禽譜にもある。博物館禽譜には、「りきゅうがも」の名前で出ている。・・・(聞き逃した)では、浅草で売られていたものが描かれているそうだ。カンムリツクシガモが絶滅していく過程で、珍鳥として数々の図譜に描かれたという歴史は、日本人と鳥との関係を考えるうえで、とても興味深い。次々にスクリーンに登場した図譜の絵も楽しめた。

以上は、携帯電話からアップロード。