自然再生指針合宿を終えて

羽田空港サクララウンジにて。自然再生事業指針案検討合宿は、12時半ころに、無事にミッションを完了した。

保全上重要な単位」という表現を使うかどうかについては、鷲谷さんと私の意見が対立した。「保全すべき対象は、単なる『種』ではなく、地域固有の系統である」という文章には、全員が合意した。意見が分かれたのは、これに加えて、「地域固有の系統を保全上の単位として用いる」という表現を加えるかどうかという点。確かに、「保全上の単位」という表現があるほうが、多くの人には考えやすいと思う。類型化は、人間の基本的な思考モジュールの一つなので、「単位」という捉え方をするほうがわかりやすいのだ。しかし、種内の系統をグルーピングしようとしても、多くの場合、どこで切るかという判断は困難である。分けられないものを分類し、単位として認めることについては、恣意性がともなう。

移植による復元を行う場合に、どのくらい遠く離れた集団まで同じものとみなしてよいか、という問題は、保全の現場でしばしば生じる、解答が難しい問題である。実は、この問題は、科学的に解決できる命題ではなく、価値観にもとづいて判断する問題だ。科学的に言えるのは、集団間の遺伝的な分化がどの程度大きいかということだけだ。その事実を知ったうえで、移植を認めるかどうかは、それぞれの事業に関わる関係者の間で、合意形成をはかるべきことである。

このような考えにもとづいて、科学的命題ではない「保全上重要な単位」という概念を使いたくないというのが私の主張だ。この主張を述べたうえで、「しかし、私以外のみなさんが書いても良いとお考えなら、私は引き下がります」という発言をした。その結果、私を支持する意見もあり、鷲谷さんが、「みんなが合意できる範囲で指針をつくりましょう」という立場をとられたので、指針案から「保全上重要な単位」という表現は消えた。

このエピソードは、合宿での議論の進み方を象徴している。意見が分かれる点は多々あったが、全員がどうすれば合意できるかを真剣に追及し、指針案の完成に向けて力をあわせた。ハードな会議だったが、心地よい疲労と達成感が残った。

公表案を整えるための、最終的な調整作業は、委員長である私に一任された。今日中に文章を整えて、委員に送ろう。今週中には、ウェブサイトで公開できるだろう。