タイ出張・タイ調査計画

この間のアクティビティを簡潔に記録に残しておこう。タイでは、2015年までの共同調査の打ち合わせをして、許可申請書案を書き上げた。5箇所(北部のドイ・インタノン、北東部のプー・クラドン、北西部のカオ・ソイ・ダオ、南部(半島部)のカオ・ルアンに加え、西部のケン・カチャン)で標高別のトランセクト調査を実施する計画である。ドイ・インタノンはタイ最高峰。ベトナムのファン・シーパンにつぐ、インドシナ第二の標高を誇る名山。固有種も少なくない。国立公園の入り口(たしか約800m)から、2565mの頂上までの植生が比較的良く残されている。原生的な植生が残されている一方で、国立公園のなかで、山地に暮らす少数民族の森林利用が続けられており、その意味で「里山」的な環境もある。昨年の11月に、27年ぶりに訪問した。頂上まで立派な車道が作られ、頂上の湿地には散策路が作られていた。またシャクナゲ類が群生する岩がちの斜面にも散策路が作られ、巨大な寺院も建造され、すっかり様子が変わっていた。すでにいくつか、絶滅したと思われる種が生じている。この場所で、標高別のトランセクト調査をして、どこに希少植物・絶滅危惧植物が分布しているかについて定量的な記録をとり、国立公園管理に生かしてもらう計画である。
プー・クラドンは、有名なテーブル・マウンテン。古生層の砂岩がそそりたち、標高約1300mの頂上部は台地上で、湿地や松林が広がっている。台地に降った雨は北に向かって集まり、滝となって北の谷に流れ落ちている。やはり固有種がいくつも自生している山だ。最近ではキャンプ地としてすっかり有名になり、頂上部の過剰利用が進んでいる。登山路沿いの植生も、荒廃が進んでいると聞いている。私が訪問した27年前から、植生が大きく変化しているようだ。固有種・希少種の減少・絶滅が危惧される。ここでも、標高別、および頂上部の台地の各地点でのトランセクト調査をして、国立公園管理に役立つ分布データを集める。
カオ・ソイ・ダオは、27年前には低標高地の谷を歩いただけ。川幅のある渓流沿いに、良好な森林があったが、今はどうなっているだろう。一昨年に訪問したカンボジアのカルダモン山地につながる山地である。カンボジアとの比較のうえでも、ぜひ調査したい場所だ。
カオ・ルアンは、半島部の最高峰(1780m)。27年前には、治安上の問題があって立ち入れなかった。いまでは国立公園として保護され、頂上までの登山路も確立されている。ドイ・インタノンやプー・クラドンに比べて植物の調査は遅れており、まだ新記録がたくさん見つかるはずだ。低標高地では農地利用が進み、森林は断片的にしか残っていないようだ。しかし低標高地ほど多様性が高いはずなので、断片的に残った森林もぜひ調べたい。
ケン・カチャンについてはまったく知らない。Wikipediahttp://en.wikipedia.org/wiki/Kaeng_Krachan_National_Park)によると最高峰は1200mの標高がある。西部の山地としては、かなり高い。西部は27年前にもかなり森林利用が進んでいたように記憶している。その西部で、国立公園として保護された、貴重な場所だ。
タイは私が訪問した27年前から、劇的に変化した。バンコクは巨大都市に成長し、その一方で国土の森林面積は大きく減少した。昨年の大水害は、各地に作られたダムによる治水能力を降水量がこえたために起きたのだが、背景要因には気候変動に加え、森林面積の減少も考えられる。27年間にどんな変化が起きたのかをこの目で見て、調査結果をより良い未来に生かしたい。
これで、カンボジアインドネシア・タイでの調査が軌道に乗る。今年は、ベトナムとマレーシアにもコンタクトして、2015年までに5カ国での比較ができる調査をする予定。このようなアジア規模の比較調査は、27年前にはとても構想できなかった。東南アジア全域を対象に、生態学分類学・生物地理学的なアプローチを統合した植物多様性研究を展開できるのは、夢のようだ。
週末に開かれた送粉保全シンポの記録も書きたいが、それはまた後日。