西ジャワの森林消失・南セレベスのカルスト・アジアの生物多様性観測プロジェクト

yahara2011-02-17

組織的若手派遣事業で2カ月間インドネシアに滞在し、GISデータなどのサーベイをしたIさんが、研究室に来てくれた。たくさんの図と写真を掲載した報告書の原稿を持参し、成果の報告をしてくれた。西ジャワのゲデ・パンゴランゴ国立公園に関しては、地形分析の結果も紹介してくれた。これまでに設置されている森林プロットが、地形のなだらかな場所に限定されていることがよく分かった。ゲデ・パンゴランゴ山地全体では、無数の渓谷が刻まれており、谷にそって傾斜が急な場所が少なくない。しかしそのような場所は、ほとんど未調査のようだ。また、標高1000m以下では、無数の道路が網目状に走っており、森林がほぼ完全に消失している。ただし、いくつかの場所に小面積の森林スポットが残されているようだ。そういう場所をしっかり調べて、再生の可能性を探ってみたい。
Iさんはまた、出身地であるスラウェシ島も訪問し、南部のバティムルン‐バルサラウン(Bantimurung – Bulusaraung)国立公園の下見をしてきてくれた。中国南東部に次ぐ、世界第2のカルストが発達していることを初めて知った(→http://www.skyscrapercity.com/showthread.php?p=31770824;写真はこのサイトから転載)。石灰岩の険しい地形に発達した独特の植生や、鍾乳洞内の川に住む目が退化した魚の写真を見せてくれた。近隣の大学の学長さんにも面会し、共同の調査研究に関する事前折衝までしてくれた。今年は西ジャワと西スマトラを調査し、スラウェシ島の調査は来年以降に考えていたが、Iさんの熱意あふれる事前調査のおかげで、今年からスラウェシ島でも調査をスタートさせることが可能かもしれない。
今年は7月から、環境省地球環境研究推進費によるアジアの生物多様性観測プロジェクトがスタートする。統合解析班、種・遺伝子班、森林班、陸水班、海洋班からなる大規模プロジェクトで、私は全体の代表をつとめる。5年間のプロジェクトだが、広大なアジアを対象にするので、とても全域を調査するわけにはいかない。衛星画像や各種地図データ、標本データを活用した広域評価と、特定地域の地上観測を組み合わせる以外に道はない。これまでの日本人による生物多様性研究は、特定地域での地上観測に重点が置かれてきたが、今回は広域評価をきちんとやるつもりだ。しかし一方で、保全努力に結び付けるためにも、特定地域での地上観測がかかせない。両者のバランスをとるのが、私に課せられた重要な課題のひとつである。