アンジェラ・アキ「手紙〜拝啓 十五の君へ〜」

先日、東大のSさんを助手席に乗せて、新キャンパスにむかう途中で、ラジオからこの歌が流れてきた。数回聞いたことがあるだけの歌だが、しっかりと心に残っている。一度聞いただけで、胸が熱くなる歌だ。
この歌は、昨年度のNHK全国合唱コンクール中学生の部の課題曲。合唱コンクールの課題曲として始めて、シングルアルバムが発売され、以後ロングヒットを続けているそうだ。Yahooの卒業ソング歌詞検索ランキング(2009年3月17日のトレンドサーフィン)では、長く歌い継がれた歌や、最近の人気卒業ソングを抜いて第一位である。
この歌の魅力は、この歌を作詞・作曲したアンジェラ・アキの魅力と重なる。
アンジェラ・アキは、15歳のときに30歳の自分にあてて手紙を書いたそうだ。中学生向けの合唱課題曲の依頼を受けたときに、この手紙を読み返し、「手紙〜拝啓 十五の君へ〜」を作った。このため「手紙」の歌詞は、15歳の自分から未来の自分へのメッセージで始まり、そのあとに、30歳になった自分から15歳の自分への返事が続くというユニークな構成になっている。この構成が良い。
「拝啓。この手紙を読んでいるあなたは、どこで何をしているのだろう。十五の僕には誰にも話せない、悩みの種があるのです」と苦しい胸のうちを語りだす15歳。そして、「拝啓。ありがとう。十五のあなたに伝えたい事があるのです。自分とは何でどこへ向かうべきか、問い続ければ見えてくる。」とやさしく答える30歳の自分。「誰の言葉を信じ歩けば良いの?」という15歳からの問いには、「自分の声を信じ歩けばいいの」という30歳からの答えが戻る。これが大人からの一方的な説明なら、若い心には響かないかもしれない。しかし、話しかけてくれるのは30歳の自分。その対等な目線が、この歌詞の魅力だ。
もちろん歌っているのは、アンジェラ・アキという他人だ。しかし、アンジェラ・アキは飾らないシャツにジーパンという出で立ち。ハーフで、とても綺麗な人だけど、気さくでやさしいお姉さんという印象がある。中学生にとっては、先生よりもずっと親しみが持てる存在なのではないか。NHKの特番で、合唱コンクールの課題曲を練習している中学生に向かって、アンジェラ・アキがピアノを弾きながら「手紙」を歌うシーンを見たが、多くの中学生の目がうるんでいた。
中学生に対するアンジーは、真剣そのもの。ありったけの思いやりをこめて、この歌を歌っていた。そして、歌い終わると、「ありがとう」と中学生にむかって深々と頭を下げた。彼女は心から、「自分の歌を歌ってくれて、聴いてくれて、本当にありがとう」と思っているのだろう。そんな彼女の真摯な思いが、「手紙」のメロディラインを生み出したのだと思う。やさしい情感にあふれながらも力強さを秘めた、素敵なメロディだ。そして彼女の声が、このメロディにぴったりあっている。
環境gooに、アンジェラ・アキのインタビュー記事が掲載されている。その4ページ目(http://eco.goo.ne.jp/life/interview/aki/04.html)のタイトルが、実に良い。
「エコって思いやりじゃないですか。自分だけのものじゃないから。」