プーさんの鼻

読むものが尽きて、つくばエキスプレス秋葉原駅売店に立ち寄ったら、俵万智さんの新しい歌集が文庫本で出ていたので、買って車中で読んだ。母親となった作者の驚きと感動が伝わってくる歌集だ。
「子育ては、驚きと慣れの連続だ。一度なれてしまったら、はじめの驚きの感覚は失われてしまう。・・・だからこそ初めの一歩の驚きを、逃さずに三十一文字に刻みたい、と思った。短い言葉ならではの反射神経が、役に立った」とあとがきにある。「短い言葉ならではの反射神経」とはいかにも作者らしい表現だ。実際に、「初めの一歩の驚き」が反射神経の良いカメラマンが切り取ったスナップショットのように、生き生きと表現されている。
本のタイトルは次の作品からとられたもの。

  • 生きるとは手をのばすこと幼子の指がプーさんの鼻をつかめり

とくに面白いと思ったのは、赤ん坊の言葉に対する作者の表現である。言葉に対する「反射神経」が鋭い作者だけに、赤ん坊の言葉の変化には、驚きの連続だったようだ。

  • あーじゃあじゃ、うんまぱっぱー、この声がいつか言葉になっていくのか

と描いていた赤ん坊も、やがて

  • 納豆は「なんのう」海苔は「のい」となり言葉の新芽すんすん伸びる

と描かれるようになる。作者の言葉もつられてはずむ。

宮沢賢治とも草野心平とも違う言葉のリズムがあって、楽しい。
・・・と書いたが、「ぴっとんへべへべ るってんしゃんらか」は『にほんごであそぼ』(NHK教育)のエンディングの歌詞で、作者のオリジナルではないようだ。