新入生に薦める本(1)思い出の一冊

九大生協で、「新入生に勧める本」についてまとめた読書だよりを編集することになった。新入生や2年生を教える教員から推薦文を募る。そのためのサンプルを書いたので、このブログでも紹介する。5回続ける予定。今回は、「思い出の一冊」。次回以降、必読の一冊、トレンドの一冊、気晴らしの一冊、渾身の一冊、が続く。

海をわたる蝶 (講談社学術文庫) (文庫)
日浦 勇 (著)
# 出版社: 講談社 (2005/07;初版は1973年)
# ISBN:9784061597198
わくわくしながら蝶の謎を追っていくと、そこには環境破壊があった。私の自然観に決定的な影響を与えた一冊。30年以上前の著者の問いかけは、今もなお新しい。

紹介文は3センテンスに限ることにした。長い文章はなかなか書いてもらえないし、なかなか読んでももらえない、という学生のアドバイスをもとにこの方針を採用した。紹介文を3センテンスで書こうとすると、日ごろとは違う緊張感がただよう。結構スリリングな作業だった。
「海をわたる蝶」は、私が大学一年生のときに読んで、強い影響を受けた本。「花の性」を書き始めたとき、Kさんに面白くないと言われ、参考にしたのもこの本である。自分がこれまで読んだ本の中で、思い出の一冊はなんだろうと考えてみたとき、まっさきに思い浮かんだのが、この本なのである。
イチモンジセセリの渡りを目撃するシーンを描いた書き出しは見事。私はたちまちこの本に引き込まれ、「都市化は砂漠化である」と指摘した最後の章まで一気に読んだ。その後何度も読み返したが、再読するたびに新しい発見がある。
文庫として再版されて、読みやすくなったのはありがたい。温暖化や生物多様性の減少に関心が集まる今日、必読の一冊と言ってもよい。未読の方はぜひご一読あれ。