眉山

週末は、大学院生Yさんがササユリを調査している徳島県伊島に出かけた。先月のジンリョウユリ自生地訪問に続く、徳島入りである。おかげで、徳島がずいぶん身近になった。
徳島出身のYさんの勧めもあって、映画「眉山」を見てきた。眉山というのは、徳島市の市街地に接する標高280mの山である。JR徳島駅から間近に見える位置にあり、徳島市民にとっては、シンボル的な存在に違いない。
「咲子は、母の龍子が入院したという知らせを受け久々に帰郷する。 医者から告げられた母の病は末期ガンだった。 咲子は余命少ない龍子を連れて阿波踊りへと連れだす・・・」(ウィキペディアより
「母だから言えなかった 娘だから聞けなかった そして今、私は母の想いにたどりつく」(ポスターより)
これだけの情報で、正直なところ、私は腰がひけていた。はっきり言って、私の趣味ではないのだ。
設定は、「東京タワー」にそっくりである。「東京タワー」の方は、母と息子の関係なのでまだ理解できる。また、息子のダメダメぶりが、ウェットになりがちな設定を救っている。一方の、「眉山」は、宮本信子(母)+松嶋菜々子(娘)というキャスティングであり、おもいっきりウェットな映画であろうことは、想像に難くない。
しかし、徳島に2度も足を運び、眉山を何度も眺め、Yさんの熱心な勧めを聞くと、見ないと申し訳ないような気になって映画館に足を運んだ。
宮本信子の存在感は、抜群である。とても余命少ない病人には思えない。生命感にあふれすぎてはいるが、母親がそもそも強い性格に設定されているので、ミスマッチとは思わない。宮本信子のかつての恋人(松嶋が知らなかった父)には、夏八木勲。この人の演技が、しぶい。すでに人生の盛りをすぎ、かつての恋を忘れてひっそりと暮らす老人を見事に演じていた。最後に、熱気あふれる総連の阿波踊りをはさんで、宮本信子夏八木勲が30年ぶりの再会を果たし、静かに見つめあうシーンは、この映画の白眉と言えるだろう。間に立つ松嶋菜々子はすっかりかすんでいた。
さて、これだけの映画なら、私の予想の範囲であった。しかし、この映画には、私がまったく予想しなかった題材が取り入れられていた。いやはや、驚いた。この題材を取り込んだ結果、この映画は単なる母と娘の和解の物語をこえて、普遍性を持つ作品になっていると思う。
映画館を出てから、yahoo, goo, 映画生活などのユーザーレビューを見てみたが、私が強い感銘を受けた題材には、ほとんどふれられていない。
阿波踊りを踊る人たちの表情は限りなく明るく、生命感にあふれていた。その生命感が、私の心の中では、「ある題材」と不思議に共鳴して、胸をうった。
良い映画だった。