トレードオフとは?

日本生態学会誌特集の論文原稿を読んでもらったIさんや、Kさんから、トレードオフと、形質間の負の遺伝相関とは、異なるというコメントをもらった。確かにそうなのだが、トレードオフの実態は何かという点に関しては、いまでも混乱がある。この点を考慮に入れて、日本生態学会誌特集の論文を完成させるために、トレードオフに関する最近の新しい論文を、土曜日から読んでいる。なかなか終わらない。ダウンロードしたpdfファイルを全部読んでいる余裕はなさそうだ。しかし、重要なものだけは、目を通してから、最終原稿を仕上げたい。
おそらく、原稿はほとんど修正しないことになるだろう。トレードオフについての本格的なレビューを書こうとすれば、それだけで相当な字数を費やす必要がある。いくつかの重要なレビューを「さらに深めたい人のための文献」として簡潔に紹介する段落を加えることにしようと考えている。
たとえば次の文献。

  • Blows MW & Hoffmann AA 2005 A reassessment of genetic limit to evolutionary change. Ecology 86:1371-1384

1形質、2形質、多形質の場合について、淘汰に対する遺伝的制限の例が要領よくまとめられていて、とても役に立つ。いま、簡単なメモをとりながらこの文献を読んでいるところ。
たとえば、次のようなメモをとっている。

遺伝分散が検出できないか、ごく低いことの原因:小さな集団サイズ、近親交配、生理的な制約(たとえば代謝率は体サイズと生理的に強く関係しており、この相対成長関係が進化を制約していると考えられる)、突然変異の供給量(たくさんの座が関与していれば多くの変異が起きる)、低い組換え率、遺伝的同化(canalization:淘汰によって遺伝子の表現型に対する効果が減少すること。例:Hsp90の発現レベルの変化)、拮抗的多面発現(生活史形質間の拮抗的多面発現の進化はLande 1982以来、進化生態学の中心課題だが、生活史形質間の負の遺伝相関に関する証拠は少ない)、そして最後に、淘汰の影響。方向性淘汰は、低頻度の有利な対立遺伝子が増加する過程では遺伝分散を増やすが、有利な対立遺伝子が固定する過程では遺伝分散を減らす。Lande 1979, 1982は、形質が多数の遺伝子座にある多数の対立遺伝子に支配されており、個々の対立遺伝子の表現型効果が正規分布すると仮定した。この仮定の下では、持続的な淘汰の下でも、遺伝分散はほとんど変化しない。Turelli 1988 は、対立遺伝子の効果がleptokurticな分布をする場合には、淘汰に対して急速に反応すると示唆した。

これで論文2ページ分くらい。重要なレビューについては、この程度のメモを残しながら読むほうが、あとで復習しやすい。
もちろん、全部の論文をこのようにして読んでいる時間はない。その場合には、関連のある論文のpdfファイルをひとつのフォルダーに入れておき、相互参照しながら、斜め読みを繰り返す。同じ論文のコピーを、いくつものフォルダーに置いていることもある。必ずしも通読はしない。どうせ全部を覚えることはできないので、あとで参照できるように、脳内メモリーにリンクを設定しておくことが重要だ。
もうすぐ着陸する。