地球変動・生物多様性に関する日米セミナー2日目を終えて

文部科学省NSFが共催したGlobal Changeに関する第11回日米セミナー “Biodoversity, Ecosystem Function, and Dynamic Human-Nature Interactions” は、実質的に昨日で終了した。今日は、4つのワーキンググループの議長から、各15分の報告がある。そのあと、日米の代表者からのアクションプランの提案、文部科学省NSFのプログラムディレクターからの閉会の挨拶があり、昼には閉会する。午後には、議長による、報告書作成のための会議が予定されているが、私はこれには出ない。
今回のセミナーの目的は、地球環境変動についての大スケールの研究と、これまではよりローカルなスケールで研究されてきた「生物多様性・生態系機能・人間自然相互作用」に関する研究を、組織的に結びつけるためには、どのような研究プロジェクトを推進すればよいか、とくに日米の研究者が協力して推進すべき重点テーマにはどのようなものが考えられるかについて、具体的な提案を準備することだった。
「具体的」とは、大型の重点研究費助成につながるような、という意味だと思う。また、「地球シミュレータ」の有効活用という目標が、背景にあったのだと思う。
私は、ローカルなスケールで研究をしてきたし、今後も地球規模の研究に関わるつもりはないが、「生物多様性・生態系機能・人間自然相互作用」というテーマをより大きなスケールでの研究(とくに地球科学的な研究)と連携させていくことは必要だし、そのためには、私のような研究者が討論に参加することは、必要だと思う。
私が参加した「生物多様性」ワーキンググループでは、生物多様性についてよくわかっているメンバーが集まっており、必要な論点が次々に提起された。また、書記役のKurt Fauschさんがてきぱきと議論を文章にまとめられたので、私が発奮する場面はほぼ皆無だった。そのため、2日間の討議を通じて、私としては異例なほど発言数が少なかったと思う。
生物多様性が多い地域では病原体の多様性も高い」という点に関しては、反論した。この考えは広く信じられてはいるが、実際にはマクロな生物の多様性が低い地域(乾燥地や寒冷地など)でも、病原体の多様性は高い。これは、病原体の個体数が莫大であること、突然変異率が高く、世代時間が短いので、多様化の速度が速いことによる。乾燥地や寒冷地では、病原体の多様性が低いという「信仰」は、捨てたほうが良い。
日米の研究者が協力して推進すべき重点テーマとしては、サンゴ礁外来生物、多様性の尺度の標準化、など妥当なものがあがった。
独創的なアイデアを追及する会議ではないので、結論は、至極妥当なものでよいのだ。必要性のある一般的な課題に対して、研究予算がついていくことが重要だと思う。
生物多様性モニタリング技術の近代化というテーマも話題にのぼったが、報告文書に具体的には書き込まれなかった。この課題は、個々の研究者レベルで、あるいは日米で競争して開発を進めるほうが、実質的だろう。
この課題については、九大新キャンパスで大きく展開させたいと考えている。それには、大型の研究予算が必要になる。現在、九大に「生物多様性研究センター」(仮称)を設立すべく、努力を続けているが、このセンターが実現すれば、その重点プロジェクトの一つとして、本格的な研究計画を提案し、予算確保につとめたい。
今後、生物多様性モニタリングにも、技術革新の波がおしよせると思う。生物をよく知っている研究者と、技術に強い研究者の連携が必要だ。
この方向での取り組みを本格化させようという決意を新たにした。その点では、今回のセミナーに参加したことが、ひとつのきっかけになるかもしれない。