川のおそろしさ

yahara2005-10-28


河川生態学術研究会北川グループの研究報告会が無事終了した。
報告会の冒頭で、9月5-7日に延岡市内で撮影された、出水状況のビデオを見た。台風14号がもたらした記録的な量の雨により、延岡市に注ぐ3つの河川はいずれも堤防近くまで増水した。延岡市内では、橋の直下まで激流が迫り、堤防をこえた水が、ごうごうと道路に流れ落ちていた。もちろん、市内の道路は川となり、自動車はタイヤを水没させながら移動していた。話には聞いていたが、映像を見せられると、あまりの迫力に、息を飲んだ。撮影した人は、きっと恐怖に耐えながら、カメラをまわしたに違いない。
実は、延岡市は、平成9年にも大規模な水害にみまわれた経験がある。延岡市に注ぐ河川の一つである北川が氾濫し、延岡市の3割近い範囲が浸水したのである。このとき、北川町の家田では、電柱のほぼ先端まで水没した。
この被害を受けて、北川は、河川激甚災害対策特別緊急事業(通称:激特)の指定を受けた。その結果、大規模な河川改修事業が実施された。おりしも、平成9年は、河川法が改正され、河川法の目的として、治水・利水に加えて、環境保全が書き込まれた年である。そのため、北川の「激特」では、生物や環境を守るために、さまざまな対策が実施された。私は、この事業において、モニタリング委員をつとめることになった。また、河川生態学術研究会の委員として、北川流域の希少植物の保全対策について提言を行うと同時に、河川改修工事後の植生回復についての調査を担当することになった。今日、延岡に来て、研究報告会に出席したのは、このためである。
私は中学以来、山や森を歩いて植物を調べてきたが、河川敷と関わった経験はあまりなかった。川は、変化が激しく、山や森とはきわめて異質だ。北川にかかわりはじめた最初のころは、川というものを捉えきれず、実に悶々とした気持ちで、研究会に出ていた。
今でも、川の変化の激しさには、驚かされ続けている。6年間にわたって調査をしてきた河川敷には、台風14号による出水によって、大規模に砂礫帯が堆積し、工事後に回復しつつあった河岸植生は完全に消失した(写真参照)。6年間を通じて、一度として翌年の予想があたったことがない。それほど、河川環境の変動の幅は大きく、不確実性に満ちている。森とはまったく異質な世界である。
しかし、宮崎大学の杉尾先生の研究によれば、年間の最大出水量で、植生がどの程度失われるかがほぼ決定される。大規模な破壊のあとに、どの種が植生回復を進め、その結果、どのような種多様性のパターンが導かれるかも、6年間の調査でかなりわかってきた。激しく変化する河川の生態系も、決してでたらめに変化しているわけではない。
とはいえ、調査地には、高さ1m以上もの砂礫帯が堆積してしまった。この構造的変化により、来年以降の植生回復は、これまでとは異なるプロセスをたどるだろう。
河川植生の動態を把握するには、6年間では短すぎる、幸い、定年まであと13年ある。じっくり取り組もう。