沖縄科学技術大学院大学(仮称)整備事業地は絶滅危惧生物の宝庫

昨日から滞在している琉球大学で、「沖縄科学技術大学院大学(仮称)整備事業に係る環境影響評価方法書」の公告・縦覧が、5月9日から実施されていることを知った。意見提出の期限は6月21日である。事業地は恩納村、事業規模は222ヘクタール、造成面積は造成可能範囲約80ヘクタールの一部とされている。
「方法書」には、事業用地における予備的調査の結果がまとめられ、「環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法」が提案されている。これらの項目・手法についての意見が公募されている。
「方法書」の記述から、事業用地が絶滅危惧動植物の宝庫であることが、一目瞭然である。事業地の山林でこれまでに確認された絶滅危惧動植物や保護指定動植物は、以下のとおり。

  • 種子・シダ植物:49種(カンアオイ属の新種候補1種をふくむ)
  • 蘚苔類:29種(日本新産3種をふくむ)
  • 藻類:8種
  • 哺乳類:9種
  • 鳥類:21種
  • 爬虫類:3種
  • 両生類:2種
  • 魚類:5種
  • 陸上昆虫類:48種
  • 底生動物:31種
  • 陸産貝類:9種
  • クモ型類:3種
  • 陸生甲殻類:3種

このほか、事業地には海岸の飛び地が含まれており、この海岸で確認された絶滅危惧動植物や保護指定動植物は以下のとおり。

  • 海草:6種
  • 海藻:2種
  • 海生動物:21種

琉球大学の友人によれば、このほかにラン科植物の新種が見つかっているという。また方法書に記述のあるカンアオイ属の新種候補は、花の形態のみならず、葉の形態ですら既知種から区別できる特異なものだという(カンアオイ属には多数の種があるが、葉で種を区別することは一般に困難である)。
上記の種のリストを見ると、事業予定地が本格的な学術調査を必要とする、第一級の重要度を持つフィールドであることがわかる。
これまで沖縄本島では、北部山地(いわゆる「やんばる」)に関心が集まっていたので、中部に位置する恩納村の山地は調査の盲点になっていた。北部とは異なる植物が見られることはある程度わかっていたが、本格的な調査が行われないまま、今日に至っていた。その恩納村の動植物の貴重さが、沖縄科学技術大学院大学(仮称)整備計画の浮上によって、一気に明るみに出た。
カンアオイ属やランの新種が発見されたことから考えて、さらに新種が見つかる可能性は低くない。世界でもこの場所にしかない固有種の進化をもたらした、特異な環境がこの土地にはあるということだ。この土地の生態系と、そこに見られる生物は、将来のバイオサイエンスにとって、かけがえのない研究資源である。ショウジョウバエやC. elegans、あるいはシロイヌナズナやイネのようなモデル生物の研究の先には、多種多様なユニークな動植物に関する本格的なバイオサイエンスの研究が待ち受けている。このような近未来の研究は、基礎的にも応用的にも、エキサイティングな成果をもたらすことは間違いない。その時代の扉は、すでに開かれている。
おそらく、幸いと言うべきだろう。沖縄科学技術大学院大学(仮称)では、「当面、バイオサイエンス・ナノサイエンスなどを中心とする」研究内容が計画されている。これだけの研究資源をむざむざと開発によって消失させることに賛成する生物学者は、皆無に近いと思う。学長候補に名前があがっている研究者も、聡明な方である。種の絶滅という汚名のうえに、沖縄科学技術大学院大学(仮称)を作ることに賛成されるはずがない。
当然のことであるが、土地利用の基本方針の筆頭に、「環境共生型キャンパス計画とする」ことが掲げられている。同じ方針を掲げた九州大学では、用地内で種を消失させないことを目標に掲げ、環境影響評価法が要求するよりも高い水準の調査研究と保全対策を実施した。バイオサイエンスを含む知の拠点形成において、これは当然のことだ。結果として、Scienceにもとりあげられ、国際的な評価という名誉を得た。
沖縄科学技術大学院大学(仮称)用地では、九州大学の水準をこえる、調査研究と保全対策が実施されるように望みたい。それが必要な場所であり、それが必要な時代である。