オーバードクター問題:資料へのリンクの追加

大学に戻り、nqさんが紹介してくださった「第3期科学技術基本計画の重要政策(中間とりまとめ)」(平成17年4月:文部科学省科学技術・学術審議会基本計画特別委員会)をざっと見た。以前に目を通したことがあるが、確認したい点があった。研究者のポスト数についての言及があるかどうかという点である。やはり無かった。
「人材の養成・確保」に関する部分の目次は以下のとおり。

III.科学技術関係人材の養成・確保(PDF:51KB)
 1. 優れた研究者の確保
(1)公正で透明性の高い採用選考・人事システムの構築
(2)若手に自立した活躍の機会が与えられる仕組みの整備

  任期制の広範な普及
  若手が自立して裁量ある研究を行えるテニュア・トラック制の導入
(3)多様で優れた研究者の活躍の促進

  女性研究者の活躍促進
  外国人研究者の活躍促進
  優れた高齢研究者の能力の発揮
 2. 社会のニーズに対応した人材の養成
(1)大学院教育の改革
(2)人材養成面での産学官連携の強化
(3)博士号取得者の産業界への就業促進などキャリアパスの拡大
(4)知の活用や社会還元を担う多様な人材養成
 3. 次代を担う人材の裾野の拡大
(1)理数好きの子どもの裾野の拡大
(2)興味・関心の高い子どもの個性や能力の伸長

「優れた研究者の確保」をうたいながら、何人確保するかという数値目標はない。研究投資額の目標について、つねに数字で議論されているのとは対照的だ。また、「社会のニーズに対応した人材の養成」といいながら、どの程度のニーズに対して何人程度の人材を養成するかという定量的検討がない。
2010年に25万人程度まで大学院生を増やすことを提言した1998年の大学審議会の答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について ―競争的環境の中で個性が輝く大学―」では、まがりなりにも需要予測があった。(2)高等教育規模の展望  2)大学院の拡充 (ウ)将来推計、には、「大学院への進学動向及び修了者の雇用機会についての近年の傾向の分析に基づく将来推計によれば,西暦2010年における大学院の在学者数は,これまでの進学動向に基づく試算では約25万人,雇用機会に基づく試算では約22万人から24万人との結果が得られた。」とある。もっとも、雇用機会の試算根拠は示されておらず、「今後の社会・経済の発展の中で,伝統的に意識されてきた大学院修了者の進路の在り方についてはこれまでとは異なる変化が生じざるを得ず,学生側,雇用者側双方の考え方を変えていくことが必要である。」という精神論が書かれていた。それでも、数字はあった。
今回の「中間とりまとめ」では、人材養成・確保に関して、数字がまったくない。
このような、定量性・計画性のない政策では、オーバーポスドク問題の解決はおぼつかないと思う。
私の研究室で博士の学位をとり、現在ポスドクであるY君のブログに、次のようなコメントがあった。

矢原先生のブログでポストポスドク問題が熱い。コメント欄は過熱している感も。重点化で院生やポスドクが増えたこと自体は、例えそれらの多くが重点化前の院生・ポスドクよりも能力が劣る人材であるとしても、そんなにまずいことではないと思う。研究に携わる絶対数が増えれば、その学問分野の勢いは増す。学問は一握りの天才・秀才だけで進められるものではない。裾野の広さこそ重要だと思う。もちろん、全ての院生・ポスドクが常勤大学教員になるのは無理だ。生態学の分野で言うと、コンサルでも、NPOでも、博物館でも、独法研究所でもなんでも良い。とにかく広がった裾野を雇えるだけの多様なポストが出来れば良いと思う。実際、周辺でも、学位を取る人全員が大学教員になりたいと思っているわけではなく、NPO関係で保全の仕事を進めたいと思っている人などいたり、大学で教育に携わるのはむしろイヤという人もいる。

状況を前向きに受け止めてくれていて、嬉しい。博士取得者は狭い専門にこだわりすぎで、自ら進路を狭めているというステレオタイプ的批判があるが、私が知る限り、彼ら・彼女らの多くは、自分がどのような分野でどのような貢献ができるかを柔軟に、真剣に考えている。社会の評価が低いことのほうが問題だと思うが、そう思うなら、この評価を変えていくしかない。