アポイ岳におけるお花畑の衰退

shimotsukiさん、ngtさん、アポイ岳に関するコメントをありがとうございました。アポイ岳高山植物群落については、昨年の生態学会釧路大会で、シンポジウム「北海道アポイ岳の高山植物群落」が開催されました。このシンポジウムの講演要旨で、「アポイ岳における高山植物群落の40年間の変遷」を見続けてこられた渡邊定元さんは、次のように述べられています。

調査の過程で常に注目してきたのは超塩基性岩フロラの急速な劣化・衰退であった。それは,人間活動によるフロラの劣化もさることながら,動物散布による遷移の促進といった生態系管理の基本にかかる問題を含んでいた。アポイ岳では,この45年間で高山植物が生育するかんらん岩露出地が大幅にせばまってハイマツ林やキタゴヨウ林に遷移してきている。その遷移の機構は,まず南斜面のお花畑にホシガラスによってキタゴヨウの種子が貯食され,その一部は芽ぶく。15 年を経たのちには樹高2.5m程度に達し,チャボヤマハギやエゾススキが侵入して,標高が低いなどの理由から,近い将来,森林に推移することが想定されている(渡邊1994)。急速な温暖化は,このテンポを確実に早めているとみてよい。お花畑の消失は,世界でアポイ岳にしかない固有種のエゾコウゾリナをはじめ,エゾタカネニガナ,アポイクワガタなどの植物を確実に消失させている。

高山植物群落の成立要因に関しては、様似町アポイ岳ビジターセンターの田中正人さんが、「1)夏期に海霧の影響を受け気温が低下し、2)冬期は海からの風(西風)で積雪が減少する位置にあること」をあげられています。
どんな地域であれ、植生や植物群落の変化には、グローバルな要因の影響とローカルな要因の影響が関与しているでしょう。一般的には、ローカルな要因の影響が強いと思います。だから私は、ローカルな要因の解析に、もっと研究予算を割くべきだと考えています。しかし、グローバル要因の研究とローカル要因の研究を対立させて、予算の分捕り合戦をするのは、快くありません。相対的に軽微なグローバルな要因の影響を精度高く検出するには、ローカルな要因も含めた観測が必要なのだという説明をして、ローカルな要因の研究を、「地球観測の推進戦略」の中に組み入れていくのがよいと考えています。