雨水・佐保姫・若菜摘み

今日は、九大入試。私は「生態学I」の採点。
朝から降っていた雪は、昼すぎには小雨にかわり、先ほどから明るい陽が射している。いかにも「雨水」の季節らしい天候である。学内では梅が咲き、春の到来を感じる。
昨日は、環境創造舎の学生たちが手伝って、「九州大吟醸」のしずく搾り作業が完了した。醪を汲み出し、酒袋に注いで吊り下げ、酒袋から滲み出してくる大吟醸のしずくを集めて瓶詰めにする作業である。3月8日には、新キャンパスでお披露目会を開く。浜地酒造さんから、良い味だと聞いており、お披露目会が楽しみである。
浜地酒造さんとは、「佐保姫」「竜田姫」という梅酒を造れないかという相談もしている。万葉以来の春の女神と秋の女神の名前のついた梅酒を造ることで、伝統的な季節感を現代に再生したいという思いがある。「奈良の女神じゃないか」という声もあるが、奈良の里山の風景をはじめて見たとき、福岡育ちの私はまったく違和感を感じなかった。「佐保姫」「竜田姫」は、福岡の里山にも通じる季語だと思う。
そして何より、女子学生には、梅酒の人気が高い。「九州大吟醸」に加えて、梅酒があれば、より多くの人に、「飲めば飲むほど緑が増えるプロジェクト」に関わってもらえると思うのだ。
「佐保姫」と言えば、順徳天皇の若菜摘みの歌が、春らしくて良い。
さほ姫のそめ行く野べはみどり子の袖もあらはに若菜つむらし(紫禁和歌草)
春と言えば、若菜摘み。そういえば、今年はまだ、ノビルを食べていない。お披露目会用に、ノビルの酢味噌あえでも作りたいところだが、そんな暇がどこにある・・・。
以前から、ノビルがなぜ「春の七草」に入っていないのか、不思議に思っていた。七草粥は、ノビルを入れて作るほうが、断然おいしいのに。
今年になって、『荊楚歳時記』(平凡社東洋文庫324)を読み始めて、謎が解けた。「五辛」に数えられる臭いの強い植物を食べることを、仏家が忌避したらしい。たとえば、前秦時代以来の『梵網経』には、「なんじ仏子、五辛を食すること得ざれ。ニンニクと、ノビルと、ネギと、ヤマニンニクと、カラシナと。これ五種は一切の食中に食すること得ざれ。」とあるそうだ。
古事記にも登場するノビルが、「春の七草」からはずれたのは、仏教の影響に違いない。私たち日本人の食文化は、仏教の伝来によって、ずいぶん大きな影響を受けたのだろう。それでも、庶民はノビルを食べ続けてきた。冬や早春に食べられる山の幸は、貴重な食糧だった。冬にも新鮮な野菜が手に入る暮らしが可能になったのは、つい最近のことなのである。