外来種の交雑から進化した雑草
今日は、門司の植物防疫所で、生物多様性と外来種について講演をする。外来種をテーマに講演するのは始めてなので、準備に時間がかかり、またしても研究室で夜更かししている。
侵略的外来種の中で、私がスゴイと思っているのは、イネ科の雑草Spartina anglica。この種は、イギリスに自生するS. maritimaと、北米東部に自生し、イギリスに帰化しているS. alternifloraの交雑に起源する異質倍数体である。両親種の雑種S. x townsendiiは、不稔である。しかし、この不稔雑種が倍数化したS. anglicaには、高い稔性がある。その起源は、標本記録から、19世紀末だと考えられる。イギリスで見つかったために、「anglica」と名づけられたこの異質倍数体は、イギリスの海岸部の塩湿地で繁殖して、強害雑草となっている。さらに、北米に侵入し、合衆国の海岸部やカナダの塩湿地で大繁殖して、問題をおこしている。最近では、ニュージーランドに帰化し、湿地で猛威をふるっているという話を、Ainouche博士から聞いた。また、中国にも帰化しているというから、日本でも要注意だ。
侵略的な点でもスゴイが、不稔雑種が倍数化して、強害雑草が進化したという点もスゴイ。さらに、最近の研究によると、この雑草の進化には、ゲノムのメチル化パターンの変化が関わっているらしい。次の論文に、最新の情報が要約されている。
Ainouche, ML & al. 2004.Spartina anglica C. E. Hubbard: a natural model system for analysing early evolutionary changes that affect allopolyploid genomes. Biological Journal of the Linnean Society, vol. 82, no. 4, pp. 475-484.
日本では、セイヨウタンポポ(3倍体)とニホンタンポポ(2倍体)の雑種(3倍体・4倍体)ができて、無融合種子形成(非減数卵が受精せずに種子になること)によって、日本全国に広がっている。おそらく、日本で進化したこの雑種が、海外に進出している。
外来種が分布を拡大するとき、新たな環境の下で、必ず適応進化をおこしているはずだ。このプロセスを理解することは、生態系を守るためにも、進化についての理解を深めるためにも、とても大事だ。しかし、外来種の進化についての研究は、日本ではまだほとんど行なわれていない。このBlogを読んで、よし自分がやってみよう、という若者が、あらわれてくれることを願う。