大隈さん、朝日賞受賞おめでとう

新年早々、うれしいニュースが届いた。
友人の大隈良典さんが、「細胞内分解系オートファジーの分子機構の解明」の業績により、2008年度朝日賞受賞者に選ばれた(http://mainichi.jp/enta/art/news/20090101ddm041040103000c.html)。
大隈さんとは、東大理学部植物学教室で一緒に助手をつとめ、教養学部で一緒に助教授をつとめた。何かにつけ、お世話になった。酵母の突然変異体を使った研究と言えばありきたりに聞こえるが、機能よりもむしろ形態の変化に着目して突然変異体を単離するという独自のアプローチを採用されていた。私が東大理学部植物学教室で助手をつとめていたころは、cdc変異体の研究からブレイクした細胞周期の研究が大きく発展している時期だったが、大隈さんは早くから細胞周期自体よりもオルガネラに着目されていたと思う。突然変異体を単離する研究で、形態へのこだわりをもたれていたことが印象的だった。機能変異をおこした突然変異体をスクリーニングすることに比べ、形態にこだわる研究では、顕微鏡をのぞいてこつこつと突然変異体を探す必要がある。明らかに効率の悪い方法だが、そのこだわりがオートファジーの発見につながったのではないかと思う。また、植物学教室に在籍された経験から、植物と酵母に共通する液胞というオルガネラに深い関心を持たれていた。基礎生物学研究所ウェブサイトの紹介記事「細胞内エネルギー変換機構・大隈教授オートファジーの分子機構の解明が進む」(http://www.nibb.ac.jp/pressroom/news_detail.php?no=33)には、以下のように書かれている。

酵母細胞にはリソソームと同じ働きをする液胞(vacuole)という細胞内小器官(オルガネラ)が存在します。酵母細胞は栄養源がなくなると減数分裂を誘導し4胞子を作ります。即ち細胞の大きな作り換えが起こります。このときには大規模なタンパク質の分解が誘導されます。酵母の液胞は光学顕微鏡で容易に観察することが出来ます。液胞の中に分解されるものが入るのであれば、分解を止めてやればそのような過程が眼で見えるのではないかと考えました。実際大変面白い変化を見つけることが出来ました。細胞が栄養飢餓に遭遇すると液胞の中に細胞質を取り囲んだ構造が沢山貯まって来ることが分かりました。電子顕微鏡を用いた解析から細胞は栄養が枯渇すると自分自身の細胞質の一部を膜が取り囲んで、2重膜で囲まれたオートファゴソームと呼ばれる膜構造を形成します。オートファゴソームはその外の膜で液胞と融合して中身を液胞内に放出します。このようにして細胞質が分解コンパートメントに運び込まれます。野生株では液胞内でこの膜構造は直ちに壊され中身が分解されます。この過程は動物細胞で知られていたオートファジー(自食作用)と全く同じであることが分かり、酵母がモデル系となることが明らかになりました。この形態的な変化を手がかりに自分の構成成分を分解するオートファジーに必要な遺伝子を見つけることが出来ました。私たちは世界に先駆けて少なくとも15個の遺伝子がこの過程に必須な役割を担っていることを突き止めました。このような遺伝子が1つでも機能を失うと細胞は栄養飢餓になっても分解を誘導することができません。面白いことにオートファジーができない細胞は飢餓条件下に死んで行きます。自己の分解が生存の維持に必須であることを示しています。

液胞への関心や、形態変異へのこだわりが、オートファジー関連遺伝子の単離につながったようだ。
大隅さんは短期的に論文が量産できる研究ではなく、自分の関心や流儀にこだわって研究を続けてこられた方である。そういう大隈さんが朝日賞を受賞されたことは、本当にすばらしい。心からお喜びもうしあげたい。