「文明崩壊」を読み返す

金曜日は、新宿で開かれた農業環境技術研究所の研究発表会で、「生物多様性保全と私たちの未来」というタイトルで1時間の講演をこなした。これまでに蓄えたスライドを90枚ほどかかえて上京便に乗り、機内でアレンジするという、あいかわらずの慌しい準備となったが、何とか役目を果たすことができて、ほっとした。
タイトルに「私たちの未来」を加えたので、ジャレッド・ダイアモンド著「文明崩壊」(下)の第4部「将来に向けて」を機内で読み返し、「とりわけ深刻な12の環境問題」をスライドにまとめて、講演の最初で紹介した。彼の12のカテゴリーは、地球環境問題を概観するうえで、とてもわかりやすい整理だと思う。
第4部「将来に向けて」は、第14章「社会が破滅的な決断を下すのはなぜか?」、第15章「大企業と環境」、第16章「世界はひとつの干拓地」からなる。いずれも読み応えのある章だが、とくに失敗した社会を比較した第14章は秀逸である。「失敗学」の本はたくさんあるが、ダイヤモンドの「失敗学」の特色は、社会生物学進化心理学、およびその影響を受けた環境経済学の考え方に基礎を置いていることだ。彼は、「ある社会が失敗し、別の社会が失敗しなかったのはなぜか」という問いに、どのように答えるべきかをよく理解している。
「支配層が自分たちの行動の影響と無関係でいられない社会では、大衆とのあいだの利害の衝突のせいで問題の解決に失敗する可能性は、ずっと低くなる」
そうなのだ。自分の失敗のつけがすぐに自分に返ってくる状況では、社会的問題の解決において、支配層と大衆の利害が一致しやすいのだ。逆に、実体経済から乖離した金融業のように、「後は野となれ」戦術が可能な場合には、悲惨な結果が生じやすい。こんな自明な結論に到達するために、科学はずいぶん長い時間を必要とした。
さて、日本はどうだろう。