四日間の奇蹟

「でも私は間に合った。やっと気づけたのよ。自分の価値に。」
最後の別れを前に、真理子が敬輔に語った科白が記憶に残った。
自分は何のために生きているのだろう。大学生のころ、そんな疑問について真剣に考えたことがあった。そんな若かりし日の、未熟だけど、真剣な悩みを思い出させてくれる映画である。
ヒロインは、障害を背負う少女を助け、命をおとす運命に直面する、残された四日間に、彼女は悩み、怖れ、人間としての醜さも、美しさもさらけだし、そしてこの世を去る。凝縮された短い時の間に、運命に立ち向かい、自分の人生の価値を見出し、つかの間の恋人と深く結ばれ、少女に未来を託し、永遠の安らぎを得る。
敬輔は、去り行く彼女に、「もういくのか」としか言えない。往くなといえば、少女は喜んで彼女の身代わりをつとめただろう。しかし、少女の代わりに自分が生きたいと思う気持ちを乗り越えたヒロインに、敬輔はその一言が言えない。
私はこの手の映画に弱い。作り物に涙するのは嫌だという友人がいて、私も気持ちを操作されることに抵抗を感じないでもないのだが、なぜか涙腺が反応してしまうのだ。
51歳にもなると、大学生のころのように、ナイーブな感動は味わえないが、自分の人生に重ねた思いというものも、あるものだと感じる。思えば多くの友人を失った。自分がまだ生きて、残された時間を持っていることへの、ある種の非条理な思いが、頭のどこかに常にある。あるいはまた、いまこの飛行機が落ちて、命を落とすかもしれないという思いが、時折、脳裏をかすめる。そういう過酷な運命に直面した友人もいた。残された者として、時間を無駄にしたくはない。
・・・などと言えば、少し、体裁をつくろいすぎているかもしれない。映画とワインの相乗効果で、やや饒舌になってしまったようだ。
映画のエンディングには、平原綾香の歌声が流れた。この映画には、この人のこの声以外にないと思うのは、ちょっと贔屓が過ぎるかな。
日本では、忙しくて映画館に足を運べなかったが、思わぬところで見ることができた。青臭い気持ちを持ち続けている人には、お勧めの映画だろう。
日本語のタイトルはちょっと臭いが、英語のタイトルTHE GIFTはけだし名訳だと思う。
敬輔役は、山田洋二が育てた吉岡秀隆。抑制した演技が、しぶい。脇をかためる西田敏行松坂慶子の存在感は、見事だ。とくに松坂慶子は、植物人間となって寝たきりの役にもかかわらず、画面にあらわれるだけで、輝いてしまう。平田満小林綾子も、控えめな役回りを、もったいないぐらいさりげなくこなしていた。
これだけの役者に囲まれては、真理子と千織を演じた二人(石田ゆり子尾高杏奈)には、大変なプレッシャーだったことだろう。しかし、若い二人は、のびのびと演じていた。とくに、障害とトラウマを背負った少女と、ヒロインの魂を演じた尾高杏奈は、難しい二役を見事に演じ分けていた。
監督の力が大きかったのかもしれない。日本映画に、また新しい才能が生まれたように思う。佐々部清監督の次回作に期待しよう。