連載小説「モドキ」

 大学院生が書いた原稿を直すという仕事は、大学教官にとっては、もっとも生産的な仕事の一つである。論文という形で、研究成果が実を結ぶわけだし、学生を育てる仕事でもある。その意義は十二分にわかっている。わかっているのだが、決して楽な仕事ではない。何日かこの仕事を続けると、ちょっとだけ気分転換もしたくなる。
 というわけで、「矢原のアンテナ」をチェックしてみたところ、縁あってよく知っている「詩人・小説家」ほしおさなえさんのサイト『きゅぴ島』が更新されていた。トップページから、「晶文社のサイトで連載小説書いてます。→」をたどり、「モドキ」という小説のページに行って、6回目を流し読みして、私は「青ざめた」。

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 スタッフは青ざめた。動物に感染するようになったということは、人間に感染する可能性もある、ということだ。
 研究停止を訴えたスタッフもいたが、突然研究を中断するわけにもいかなかった。数カ月前、この一連の研究に関する最初の論文「南アメリカ○○地区におけるキク科植物の突然変異について」がネイチャー誌に掲載され、大きな話題になっていたからだ。
 おかげで、系統学しかも野生植物の研究にしては破格の研究資金が降りた。だからこそ、教授は大きなチームを編成し、卒業研究の学部生まで導入できたのだ。
 その後わかった事実を発表すれば、世界中がひっくり返ることになる。そのことははっきりしていた。もう引っ込みはつかなかった。

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ボクは「植物モドキ」の研究なんて、してないからネ。みなさん、誤解しないように。