クアラルンプールを経てブルネイから屋久島へ

6月25-27日にはクアラルンプールでアジア太平洋地域生物多様性観測ネットワーク(APBON)第11回ワークショップを開き、共同議長のひとりとして、新作業計画策定などの議論に対応しました。来年には第15回生物多様性条約締約国会議が昆明で開催され、ポスト愛知目標を含む次の10年間の新戦略計画が策定されます。この策定に向けて、提案をしていく時期にさしかかっています。私は、各国が国別報告書をまとめるだけでなく、生物多様性観測体制に予算を割き、観測・評価をきちんと行うことが大事だと考えています。この提案をまとめたいのですが、その一方で、新作業計画の文書を完成させる必要があります。いまも、新作業計画の完成に向けて、何人かの方々が作業を進めてくださっています。私も早くこの作業に復帰したいのですが、今日は屋久島でこれからヤクシカワーキンググループの会議に出ます。

7月1-5日には、ブルネイで開催されたFlora Malesiana Symposium(こちらも第11回ですが、3年に一回の会議なので、もっと歴史は古い)に出ました。4日に40分間の招待講演をさせていただきました。Lessons from plant diversity assessments in SE Asia:
Sterile specimens and DNA sequences enabled us to discover more than 1,000 undescribed species(東南アジア植物多様性アセスメントの教訓:花も実もない標本とDNA配列を使って1000種以上の未記載種を発見できた)というタイトルで、COP10が開かれた2010年以来の研究の蓄積を紹介しました。12か国56地点で167か所に100m×5mのプロットを設置し、全維管束植物を識別・採集し、4万4千点の標本・写真・DNAサンプルを蓄積しました。この蓄積は東南アジアの植物研究で前例のない成果であり、講演にはインパクトがあったと思います。「花も実もない標本とDNA配列を使って新種を記載した論文が審査にまわってきても、do not reject it」と言ったら、かなり笑ってもらえました。いろいろと面白いパターンも見えてきており、種分化や多種共存というテーマにもアプローチできるのですが、その前に1000種以上の未記載種を発表しなければなりません。一日1種記載しても1000日かかる。さらに、56地点のプロットデータをクリーニングして、プロットごとにまずデータペーパーを発表したいのですが、これも月にひとつのペースだと50か月(4年あまり)かかる。人生がもうひとつほしいですよ。

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Flora Malesiana Symposiumでの招待講演。藤柄の法被を着て話しました。

Flora Malesiana Symposiumの参加者は、東南アジアの植物の研究論文以外に、私が"Decision Science for Future Earth”という題で、人間の意思決定と社会問題解決に関する総説を書いているとは、誰も思わないことでしょう。こちらのプロジェクトの最終報告書をJSTに7月1日に出しました。そのため、クアラルンプールからブルネイに移動する間は、この仕事にかかりきり。

APBON、東南アジアの植物多様性アセスメント、"Decision Science for Future Earth”、ヤクシカ問題。これ以外にも、いくつか大きな仕事をしています。保全生態学入門改訂とか、九大伊都キャンパス生物多様性保全ゾーンの調査とか、一般社団法人の設立とか(これについてはいずれ書きます)。このため、迅速に返事ができないことが多くてご迷惑をおかけしています。ご容赦ください。