多様性の潜在力-ツイッターに書いたメモのまとめ

  • 熱帯生態学会公開シンポジウム:多様性の持つ潜在力、スタート。まず百村さんによる趣旨説明。日本語で「多様性」をググる生物多様性>組織多様性、英語でdiversityをググると、人間の多様性についての記事が多い。これは面白い視点ですね。
  • 日本では2008年をピークとして人口が急速に減少している。アジア全体でも2050年をピークに人口が減り始める。この中で熱帯研究者はどう取り組んでいくのか。
  • 奥田講演:REDD+による資金だけではオイルパームへの土地転換をした場合の収入を上回れない→差額を他の生態系サービスや生物多様性へのクレジットで補う必要がある。→地元住民参加の生態系修復;オイルパーム園内での森林回廊再生。
  • オイルパーム園にメンフクロウの巣箱を置くとメンフクロウが増え、ネズミが減る(Duckett 1991)。
  • 奥田講演のまとめ:森林劣化については低インパクト伐採の採用などの対策により生物多様性の劣化を抑制することが可能。農地拡大をREDD+のクレジットだけで抑止するのは困難→不足分を補う新たな取り組みが必要。地元住民参加の生態系修復がひとつの可能性。
  • 次は東大の井上真さん:住民の生計の選好性に関する調査にもとづく講演。東カリマンタン西クタイ県での調査。伝統的土地利用(焼畑、ラタン園、果樹園、伝統的ゴム園)+新しい土地利用(政府事業としてのゴム農園、カカオ園、油ヤシ農園)。
  • 土地利用の好み:焼畑、伝統的ゴム園、ゴム農園の人気が高い。ラタン園、油ヤシ農園は好まれない。カカオ園、ラタン園はその中間。油ヤシ農園は一番もうかるのだが、好まれない。
  • 油ヤシ農園が好まれないのは、社会的懸念(土地をとられてしまうことへの抵抗感)から。→経済的利益があり、社会的懸念がない対策が重要。
  • 次に収入源に対する選り好み:米、ゴムがトップ。木材、非木材森林産物が3-4位。公務員、砂金、民間もランクイン。
  • 先住民の行動原理:土地などの生計資産(焼畑用)というセーフティネットを維持した上で近代化の便益を得る。そのうえでの各個人ごとの多様な努力。
  • 新規事業(REDD+/油ヤシ農園開発)への人々の対応:抵抗、順応、協治という3つのケース。油ヤシ農園開発に乗って焼畑をやめた人もいる(伝統的行動原理の放棄)。
  • 国家、市民社会、市場に加えて、地域社会(地縁・血縁で結ばれた伝統的社会)を考えることが重要。3つのレベルのルール(operational rule, collective decision-making rule, constitutional rule)によるガバナンスを構築。
  • Collective decision-making ruleというのは、operational rule(たとえばいつから森に入って良いか)を決めるためのルール。Constitutional ruleは行政ルール(法律およびそれに準じるもの)。
  • 最後は京大東南アジア研の河野泰之さんによる「社会発展の駆動力としての多様性」。GCOE持続型生存基盤研究で、生産と生存、公共圏と親密圏、について議論した。人類は長い間、生存するために生産してきたのに、現代では生産のために生存している。この状況をどう変えるか。
  • 河野さんの調査フィールドは、タイ東北部のドンデーン村。ひとつの村を40年以上にわたり文化人類学的調査した例。1980年代、洪水と干ばつの被害で多くの年では米自給ラインを割っていた。今では農業以外の収入が大きく増え、豊かになった。
  • 稲作の変化。経営世帯数130→209.水稲収量:平均約0.5→1.5トン/haに増えた。ただし、プロット間のばらつきも増えた。ポンプ灌漑、施肥など多様な選択肢を農家が個々に取り入れた結果。
  • 河野さんのメッセージ:自然の多様性と文化の多様性の間に、生存(のあり方)の多様性を置きたい。 生存の多様性を中心に据えて、これからの社会を考えてみたい。
  • 熱帯生態学会公開講演会の討論では、生物多様性・文化多様性に加え、「生存の多様性」までスコープが拡大した。伝統的な農村社会のさまざまな生き方を認めようという趣旨はわかるが、この表現は誤解を招くと思う。医療サービスが十分に受けられない生き方まで「多様性」とみなされても困る。
  • 討論では、医療、障害者福祉、女性の問題についてコメントした。「生存の多様性」という考え方は、人間としての基本的人権が保障されていない状況では、混乱を招くと思う。
  • 「人類は長い間、生存するために生産してきたのに、現代では生産のために生存している」という点も、角度を変えれば違った見方が可能。中世以前の人類は、生存・生産することに殆どの時間を費やしていた(支配層をのぞき)。今の日本では、多くの国民が趣味や自己実現のために時間を割ける。
  • いま私たちは、人類の歴史を通じてもっとも良い時代に生きている。生存率、平均寿命、戦争による死者数、食糧生産、就学率、病院・医師の数、障害者への支援の程度、女性の社会進出の程度、科学技術の水準、どれをとっても過去最高なのだ。この事実を直視せずに過去を美化するのは、妥当ではない。