50%に対する1%の重み(発ガンリスクを考えるヒント)

あたりとはずれの割合がちょうど50%のくじを考えてみよう。そして、ある場所(たとえば浜松町)でだけ、その割合が51:49だとしよう。あなたが浜松町で「あたり」をひいた場合、浜松町でくじをひいたことが幸いしたと言えるだろうか。その効果も皆無ではないが、基本的には5分5分のくじで、運よく「あたり」くじを引いたのだ。
昨日の学術会議フォーラム「東日本大震災による生態系や生物多様性への影響」 で、放射線の発ガンリスクに関して、放射線の影響は確率的であり、さらに他の多くの確率的要因が発ガンリスクに影響するので、「個々の事例での原因は特定できない」ことを説明した。評価できるのは、集団全体でたとえば1%発ガン率が増えるかどうかということだけである。たとえ集団全体で放射線の影響によって1%発ガンリスクが高まったとしても(注:実際にはリスクの増加は、避難地域以外では1%以下だろう)、ガンにかかった特定の人について、その原因を決めることはできない。このことをうまく説明する方法を考えているうちに、上記の「あたり」くじのたとえに思い至った。
日本人が生涯でガンにかかる割合は、ほぼ50%である。かりに発ガンリスクが1%増えたとしても、50%に比べればその重みは軽い。もちろん、1%であっても、リスクが増えることは避けたい。このリスク回避のうえでは、発ガンの原因の約30%が喫煙、他の30%が食事、そして少なくとも10%程度がストレス関連の要因であることを念頭に置くほうが良い。避難地域以外では、放射線による発ガンリスクへの増加は、統計的検出限界以下だろう。そのレベルのリスクについて心配するストレスのほうが、かえって発ガンリスクを高めてしまう可能性もある。ストレスは、体内で活性酸素を増やす効果があり、活性酸素はDNAに損傷を与えて発ガンリスクを高める要因である。
福島原発由来の放射線による発ガンリスクの増加が0.1%であっても、関東圏全体では、数千人規模で発ガン者が増える可能性がある。このことに対する対策としては、早期発見体制の充実が重要だ。いまや、早期発見につとめれば、多くのガンは治る。また、食生活の改善や運動不足の解消、そして何よりも、禁煙の推進が重要である。