「福島第一原発30km圏における被ばく」に関するチーム中川の解説

大学から自宅に戻る電車の中で、携帯でウェブをチェックして、昨日の解説に気付いた。ここ2日は、論文執筆に明け暮れた(※注)ので、原発関連の情報チェックが遅れた。

「100 mSvの被ばくにより、発がんリスクが0.5%上昇すると考えていますが、それ以下では、はっきりとしたリスクの上昇は観測されていません」という点は、私が論文を読んで得た知識とあわない。しかし、予防原則にもとづいて、「妊娠中の被ばく線量限度を10 mSv以下にすべき」と考えられているので、導かれる判断は私にも納得がいくものだ。
また、「飯舘村における内部被ばくの影響について、私たちteam_nakagawaは、データを用いた数値化がまだできておりません」と正直に書いたうえで、「内部被ばく」と「外部被ばく」がほぼ等しいというチェルノブイリ事故の調査結果を援用して判断をされている。この判断にも、納得がいく。「この仮定に立って、内部被ばくまで考慮した場合、飯舘村の実効線量はすでに10 mSvを超えているおそれがあります」とのこと。この判断にもとづき、「妊婦の方に対しては、万が一のことを考え、政府や関係機関が対策を検討すべき観測量に達していると思います」と提言されている。
科学的な判断と、政府や関係機関への提言を分けて書かれているところが、さすがである。
ちなみに私は、1日のブログで、「保安院はリスクについて正確に説明し、判断を政府にゆだねるべきだ。政府は、予防原則の立場にたって、避難に向けた対応を開始する時期に来ていると考える」と書いた。中川さんがされたような説明を、保安院にしてほしいのだ。対策について判断するのは、政府の責任である。保安院をふくめ、科学的な判断をする部隊は、関係者に的確な判断材料を提供しなければならない。一方で、避難は住民に大きな負担をかけるので、避難の利益と、そのコスト・リスクをきちんと判断して、対応を決める必要がある。その判断材料は、被曝による発がんリスクだけではいけない。最終的に判断するのは、政府と自治体、住民だ(ただし、自治体・住民が主体的判断を行う条件は、現時点ではきわめて限られている)。
飯舘村での放射線量は、着実に減っている。

ただし、チーム中川の解説に書かれているように、この減少は、半減期の短い放射性ヨウ素の変化によるものだ。今後は、半減期の長い放射性セシウムの影響が、より長く残る。
現時点での脅威は、福島第一原発の爆発時に飛散した放射性物質が、いわば「ドサッと」降ったことによるものだ。今後、放射性物質の新たな降下がなければ、リスクは次第に減っていくだろう。しかし、今後の脅威を考えるうえでは、天候や地形に関する判断が必要ではないかと思う。飯舘村は、南風が吹いたときには、原発からの放射性物質が比較的飛散しやすい位置にあるのかもしれない。今後、夏に向かうにつれて、南や東からの風が吹く頻度が高まるのではないか。また、梅雨に向かって、雨の日が増えていく。これらの影響は、過去の気象データを使って、SPEEDIで計算すれば、すぐに見通しが立てられるはずだ。おそらくSPEEDIですでに計算されているのではないかと思う。政府は避難地域を見直す、そのために専門家の意見を聞いている、と報道されているので、SPEEDIの計算結果も、検討材料にされているものと推測する。隠さずに公表すれば、より多くの専門家の検討を経て、よりよい判断ができると思うのだが、なかなか情報が出てこない。
注:昨夜は終電まで論文原稿を書き続けた。今日も朝から夕食時まで、原稿を書き続けた。さすがに「演算速度」が落ちてきたので、今夜は早めに帰宅した。