2010年をふりかえって

今年もあと数時間をのこすだけとなった。
昨年の大みそかから新年にかけては、Current Opinion in Environmental Sustainability誌の生物多様性特集号に投稿する原稿をせっせと書いていた。その原稿は、以下の論文として発表された。
Yahara T, Donoghue M, Zardoya R, Faith D, and Cracraft J. 2010. Genetic diversity assessments in the century of genome science. Current Opinion in Environment Sustainability 2: 43-49.
その後、2010年は、生物多様性関連の国際事業への対応に明け暮れた。

2月22-25日、カリフォルニア:GEO BONアシロマ会議に参加し、国際的な生物多様性観測の実行計画の立案に加わった。
3月9-12日、インドネシア:第4回GEOSS-APシンポジウム。バリ島で開催されたこの会議では、アジアの生物多様性観測ネットワーク(AP-BON)の実行計画について議論を開始した。
3月21-22日、名古屋:生物多様性条約締約国会議プレコンファレンス(名古屋大学)。生物多様性事務局のDavid Cooperさんをはじめ、世界各国の科学者とともに、2020年目標案について議論し、Nagoya Reportをまとめた。
3月29-30日、ドイツ:ドイツ文部科学省生物多様性シンポに招かれてボンで講演し、生物多様性条約議長国ドイツと次の議長国日本の交流に貢献した。
5月22日、中国:生物多様性の日に雲南省麗江で開催された生物多様性国際フォーラムに参加し、中・韓・日の研究者で深夜までかけて、生物多様性麗江声明をまとめた。
7月16-17日、インドネシア:再びバリ島に飛び、インドネシア森林ワークショップで講演。
7月18-19日、インドネシア:引き続きバリ島で、DIVERSITAS bioGENESIS科学委員会。
7月20-23日、インドネシア:引き続きバリ島で、ATBC(熱帯生物保全学会)大会に参加。
8月9-10日、カンボジアプノンペンで森林管理に関する国際シンポジウムに参加・講演。カンボジアで実施されえちるREDD+のパイロット研究について知る良い機会となった。
9月13-16日、韓国:EAFES(東アジア生態学会連合)大会に参加、COP10に向けての国際的な取り組みについて基調講演。
10月19-27日、名古屋:いよいよCOP10本番。この間、名古屋を2往復した。2つのサイドイベントで講演し、生物多様性観測に関する国際調整に時間を割いた。会期中にAP-BON運営委員会を開催。
11月15-27日、カンボジア:カンポントム省などで森林プロットの調査。
12月5-7日、ベトナムハノイで開催された、カンボジアラオスベトナム植物誌シンポジウムに参加。
12月8-12日、インドネシアジャカルタに飛び、チビノンの生物科学研究所で、AP-BONの森林多様性観測計画について打ち合わせ。そのあと、ゲデ国立公園、ハリムン国立公園の森林プロットを訪問。

以上が国際対応。国内では、屋久世界自然遺産科学委員会が2年目を迎え、ヤクシカワーキンググループがスタートした。12月22-23日には鹿児島に出張し、ヤクシカワーキンググループ・科学委員会の議長をつとめた。
12月24日には東京に出張し、「生物多様性評価の地図化に関する検討会」に出席。これにて、今年の出張が終わった。
さて、今年の大みそかはと言えば、DIVERSITASからの依頼で、ICSU(世界科学連合)のグランドチャレンジ提案(Reid et al. 2010. Earth System Science for Global Sustainability: Grand Challenges. Science 330: 916-917)について、bioGENESISからのコメント草案を作成し、bioGENESIS科学委員メンバーに送った。ICSUのグランドチャレンジ提案は、地球環境変動に関する研究と持続可能性に関する研究を統合するために、社会科学を含む包括的な地球システム科学を発展させることを意図し、地球環境に関する4つの国際プログラム(IGBP, WCRP, IHDP, DIVERSITAS)とこれらを結ぶ連携プログラム(ESSP)の再編を求めている。Scienceに掲載された上記の提案に加え、「Earth System Research for Global Sustainability: A New 10-Year Research Initiative」と題する文書が12月10日づけで起草された。この文書には、地球環境に関する国際プログラムのあり方に関して、business as usual is not an option(いまのままではダメだ)という点を強調している。
科学者みんながこのような国際的な事業に関わる必要はないが、日本の指導的科学者の少なくとも一部は、このような国際的な事業に貢献することが求められている。私はDIVERSITAS科学委員になるまで、このような国際的事業には背を向けてきたのだが、最近ではすっかり「外交官」になってしまった。私でできる責任は果たすつもりだが、いずれ私もこの舞台を去るときが来る。そのときのために、私の代わりをつとめる次の世代の研究者(複数)を育てる必要を痛感する。
このように、生物多様性に関連する国内外の要請への対応に明け暮れた一年だった。その一方で、論文原稿を書いたり、改訂したりすることに、十分な時間が割けなかった。この点は、真剣に反省しなければならない。教育者・研究者としての本分がおろそかになってはいけない。来年からは、「論文執筆」「大学院生の原稿改訂」にあてる日をあらかじめスケジュール表に書きこんで、一定数の日程を確保しようと思う