久しぶりの小貝川

yahara2007-04-28

所用で一昨日に上京し、今日は久しぶりに小貝川まで足を伸ばした。
つくばエキスプレスができたおかげで、水海道へのアクセスが良くなった。秋葉原からつくばエキスプレスに乗り、守谷で関東鉄道に乗り換え、4つ目の駅が水海道である。水海道駅の雰囲気は昔のままだったが、水海道市がいつの間にか、常総市になっていた。鷲神社の近くの国道沿いにはマクドナルドと大型ショッピングセンターが出店していた。
しかし、大和橋の近くのクヌギ林やアシ原は、昔のままである。クヌギ林では、ノウルシの花が終わり、チョウジソウが咲き始めていた。ヒキノカサの個体数は、以前より増えたような気がする。アシ原では、エキサイゼリが花を咲かせていた。周辺の環境が変わっても、河原の様子が昔のままであることは嬉しい。
「昔のまま」ということは、野焼きや草刈りが続けられているということを意味する。今でも、人と河原のかかわりが続いているのである。クヌギ林の近くでアシ原をながめながら、お弁当を食べている中年のカップルに出会った。気持ちの良い場所なのだから、もっと訪れる人がいても良いと思う。
河岸林の中を流れる小河道の水際に行くと、これまた昔のとおりに、コカイタネツケバナが生えていた。今日はこの植物の標本を採りにきたのである。まだ若干閉鎖花をつけているが、大部分の花はすでに花期を終えて、長角果となっている。上の写真がその様子だが、写真に撮っても、緑一色で、何が何だかわからない。近くにはタネツケバナも生えており、こちらはまだ花盛りで、白い花が目立っている。
コカイタネツケバナを発見したのは、1990年のことだ。あれから、17年も経ってしまった。コカイタネツケバナについては、過去5年ほどの間にずいぶん研究が進んだ。近いうちに、M君やS君が論文を発表するだろう。しかし、本種はまだ正式に発表されておらず、したがって学名がない。これでは、論文を書くときに困る。
そこで、発見者の責任として、新種記載をしようと思い、タイプ標本の採集に出かけた次第である。実は、知人のCさんにすでに標本を採集していただいているし、先週は神戸大のKさんもCさんの案内で大和橋を訪問され、標本を採られている。しかし、新種記載には、やはり自分で採った標本を使いたいものである。17年前の標本もどこかにあるはずなのだが、それを探すよりは新たに採集に出かけた方が早い。何より、フィールドに出かける大義名分ができる。
あらためて、コカイタネツケバナタネツケバナを現地で比較してみた。しかし、閉鎖花をつけること以外に、決定的な識別形質をあげるのは、難しい。タネツケバナはふつう茎に毛があり、コカイタネツケバナは無毛だが、この違いも決定的なものではない。タネツケバナの茎は直立または斜上するが、コカイタネツケバナの茎は倒伏している。この違いは生態学的には重要だが、種の識別形質として用いるには、曖昧さを残す。
これほど似ているのだから、ごく近縁な種だろうと思っていた。そこで、2種を交配すれば、F1世代だけでなくF2世代も育成できて、閉鎖花の遺伝について調べられるのではないかと考えたのだが、この目論見は見事に失敗した。F1雑種は完全に不稔だった。その後の研究によれば、2種は染色体数もゲノム組成も違うそうだ。
一緒に生えていることはあるが、2種の生育地にははっきりとした違いがある。コカイタネツケバナは、水位変動のある水辺に生え、しかもやや暗い場所に多い。茎が倒伏する性質があるので、茎が高くなる植物が茂る場所では、競争に負けてしまうだろう。明るい水辺には、競争に強い植物が茂るので、コカイタネツケバナは存続できないのである。やや暗いも水辺でも、スゲ類が茂る場所では、競争に負けるようだ。水位の変動がある斜面で、光条件が悪く、植生密度が低い場所で、コカイタネツケバナは群生している。ときには水没し、水の中で閉鎖花をつけ、結実することもある。
よく見れば、タネツケバナとははっきり違う。この種がこれまで発見されていなかったのは不思議だ。小貝川だけでなく、関東平野の原野には、もっと広く分布していたに違いない。新種として記載すれば、注目度が高まり、新しい産地が見つかるかもしれない。その意味でも、新種としてきちんと記載しなければならない。