「道」とは、不思議な言葉である。あるときは人を心強くさせるし、あるときは不安にさせる。だから、多くの歌に歌われてきたし、多くのことわざにも使われてきた。
フリー引用句集「ウィキクォート」で「道」を調べると、感慨深い引用句や格言が列記されている。

  • 意志のあるところには道がある

こういう強い言葉は、若いころには心に響いた。今でも好きな言葉だが、自分の意志だけで突進して失敗する経験を多少は積んだので、以前よりは冷静にこの言葉を受け止めることができる。

  • 新しい道へと古い道を去った者は、何のもとを去ったかは知っても何を見つけるかのは知らない

新しい道をたどり、新しい発見をする喜びは、何ものにも代えがたい。沖縄では、タカツルランという、樹上高く這い登る腐生ランなど、はじめて見る植物を堪能したが、案内されて見る感動は、新しい発見のそれには及ばない。やはり、誰もたどっていない道で、誰も知らない発見をしてみたい。
※自分で見つけた道であれば、古い道をたどることも楽しい。

  • 人生の道の中頃で 自分が暗い森の中にいるのに気がついた 真っ直ぐな小道が見えなくなってしまったように

しかし、誰もたどっていない道をたどると、しばしば不安に襲われる。ちょっと気弱になると、その不安に飲み込まれそうになる。孤独に耐える力が必要とされる。

"The road to hell is paved with good intentions."
シェークスピアが言ったとか、マルクスが言ったとか、サミュエル・ジョンソンが最初だなどと、諸説ある格言だが、ヨーロッパの古い諺のようだ。古い言葉なのだから、「舗装」という訳は違和感がある。また、intentionsは複数形なので、そのニュアンスを訳したい。
「地獄への道は多くの善意で敷き固められている」
私なら、こう訳す。
先日、リーダー論・メンバー論を書いたが、多くのメンバーがチームのことを考えて行動し、リーダーがすぐれたリーダーシップを発揮しても、組織は道を誤ることがある。協力はつねに良い結果を生むとは限らない。組織論について、多くの本や論文が書かれているが、この点に触れたものは少ない。
組織論が経験科学の枠をこえるには、進化心理学の理論枠が必要だと思うが、この点はまたいずれ。
しばらく寝かせた原稿(日本生態学会誌の総括論文)の仕上げに取り掛かっている。先が見えてからの「道」が、実は予想外に遠かったりする。頂上に立つまでは、緊張感を持続しなければならない。